泥だらけのユニホームとプロテクターには逆境で壁を打ち破る“答え”が刻まれている。2勝10敗と開幕ダッシュに失敗し、当初は取り返しがつかないぐらい出遅れたかに思われたタイガースは、7月に入ると一気に復調。7月19日には最大8あった借金を一気に完済し、首位を快走するジャイアンツへの追撃態勢を整え始めた。
ジャスティン・ボーア、ジェリー・サンズの助っ人コンビの躍動、独り立ちした変則右腕・青柳晃洋の揺るがぬ安定感……。立役者は1人ではない。ただ、チーム同様、逆風にさらされながらも懸命に前を向いて、道を切り開いてきたのが、正捕手の梅野隆太郎だ。
バズーカと称される強肩やボールを後逸しないブロッキングを含めた秀逸なツールを兼ね備える守備面はもちろんのこと打率、出塁率は広島・鈴木誠也らリーグを代表する強打者と肩を並べて上位にランクイン。得点圏打率も.350を超えるなど勝負強く、バットでも絶大な存在感を示している。打順も昨年から定位置の8番から6番へ昇格。もはや2020年の猛虎打線において、梅野は外せない存在になった。
日々のプレーににじみ出ている「怒り」「反骨」
開眼の理由は何なのか。17年から打撃部門のスタッツを軒並み向上させており、当然ながら技術的な進化が大部分を占めるだろう。18年からは巨人・坂本勇人を参考に高く上げた左足をゆっくりと下ろしてタイミングを測るフォームに挑戦。今年は、以前よりもオープンスタンスの幅をやや広げて沈み込むようなフォームを取り入れているようにも見える。実は、その巨人軍の主将からは、昨年の球宴でじっくり話す機会があったといい「梅ちゃんの打席を見ていても惜しいのが多いから、もっと上を目指したら良い」と伸びしろを指摘されていた。
ただ、今は感染防止のガイドラインに沿った取材規制があり、本人に質問をぶつけることは叶わない。近づけない、言葉をかわせない……だからこそ、記者にも伝わってくるものがあるのかもしれない。日々のプレーににじみ出ているのは「怒り」「反骨」のような激しい感情。打席での執念を感じる粘り、投手のワンバウンドをこれでもかと体で受け止め続ける姿の原動力になっている気がしてならない。
「なんで梅野を使わないんや」。そうぼやいたファンも少なくなかったはずだ。幕開けで味わったのは屈辱。実は、開幕2戦目にして「梅野」の名はスタメンから消えていた。チームの捕手陣は坂本誠志郎、原口文仁と、それぞれライバルとは違う強みを持った選手が控えており、層の厚さは球界屈指。首脳陣はそんな3人を巨人との開幕シリーズでは梅野→原口→坂本と“三戦三様”で起用した。6月から始まった練習試合でも先発投手によって先発マスクが変わる傾向があったため、予想はできたものの、当の梅野の心中は、穏やかではなかったに違いない。
それを想起させたのは開幕2日前に聞いた言葉。甲子園での最後の調整を終えて東京へ向かったその日、偶然にも代表取材する機会に恵まれて、単刀直入「捕手の併用」について聞いてみた。
「自分はそういうのをはね返していくしかないと思う。そこに関しては監督の考えもあるし」
心を鎮めるように丁寧に1つ、1つの言葉を選んだ。「昨年、一昨年といろんな経験をしてそこは負けないと思ってるし」と昨年129試合に出場し、2年連続でゴールデン・グラブ賞を獲得したプライドも覗かせながら、最後は「何とかまたコツコツとやっていくしかない」と締めくくった。