この本を書こうと思ったのはそうした疑問に答えるためだった。この変化が必然的なものであったとか、あらかじめわかっていたということは書かれていない。本書でわたしたちは、ワインスタインのまわりにあった分厚い沈黙の殻を破って最初に声を上げた勇敢な情報提供者たちが、どのような動機でこの危険を伴う決断をおこなったのか、ということを述べている。
告発者たちは身を危険にさらし……
ワインスタインのかつてのアシスタントで、ウェールズ在住の四児の母ローラ・マッデンは、ちょうど離婚したばかりで、しかも乳がんの切除手術が迫っているようなときに声を上げてくれた。
女優のアシュレイ・ジャッドは、世間にはあまり知られていないが、ハリウッドを離れて男女平等に関する研究に没頭していた時期がある。そのときの経験を踏まえて、キャリアを危険にさらしてまで語ってくれた。
ロンドン在住の製作者(プロデューサー)ゼルダ・パーキンズは、20年前にサインした秘密保持契約書のせいでワインスタインについて告発ができずにいた。契約違反のために法的かつ経済的な報復を受けかねなかったにもかかわらず、わたしたちの取材に応じてくれた。
ワインスタインのもとで長期間働いていたある人物は(ここでは名前を公表することはできないが)、そこで見聞きしたことにますます悩まされるようになり、とうとう上司の犯罪を暴くために、重要な役割を演じてくれた。
ワインスタインは編集局に乗り込んできた
この本のタイトル『彼女は語った』〔本書の原題は『SHE SAID』〕には多様な意味が込められている。声を上げてくれた方はもちろん、声を上げないことにした方々のことや、いかに、いつ、どうして彼女は語ったのか、という意味も含まれている。
これは調査報道についての本でもある。調査が始まったころは雲を摑むような具合で、わたしたちの知っていることなど無きに等しく、自身の体験を打ち明けてくれる人もほとんどいなかった。そこからわたしたちがどのようにして秘密の情報を入手し、その情報の裏を取ったのか、ひとりの権力者がこちらの調査の妨害をするために不正な手段を用いるなか、その権力者の真実をどのように追い続けたかが書かれている。さらにこれまでの記事には書かなかったが、今回初めて、記事が出る直前に、追い詰められたことを悟った当のワインスタインが、「ニューヨーク・タイムズ」の編集局に乗り込んできて、最後の直接対決をおこなった時の様子も収録した。
「ニューヨーク・タイムズ」がワインスタインについて報道したのは、「フェイク・ニュース」が非難され、「真実に対する国家の合意」という概念そのものが崩壊しているように思える時期だった。ワインスタインの犯罪が暴かれたことによる衝撃は非常に大きかったが、それは「ニューヨーク・タイムズ」のジャーナリストたちが、その犯罪について、だれが見ても疑問の余地のないくらい確固とした証拠を固めることができたためでもあった。その記事では、被害者本人による証言や金銭的な記録、法廷記録、会社のメモ、その他の明らかにされたデータを使って、わたしたちがどのようにして繰り返しおこなわれていた犯罪を実証したか、を記している。