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 わたしたちはフォード博士を、「彼女が語った」話のなかでも、もっとも複雑で人柄がにじみ出る話の主人公だと見ていた。大勢の人々に囲まれた上院の司法委員会で証言するに至るまでの彼女の道のりについて、世間が何も理解していないことがわかったときから、とりわけそう考えていた。ジョディは公聴会の現場で彼女の様子を観察し、フォードの弁護団の働きぶりを注意深く見つめ、その翌日フォードに面会した。12月には、カリフォルニア州パロアルト市で朝食をとりながら、ミーガンがフォードの公聴会後初のインタビューをおこなった。それからミーガンは数ヶ月をかけて追加取材し、フォードがなぜ進んで声を上げることにしたのか、その結果どうなったのかについて話を聞いた。実際に彼女の経験を目撃したりした人たちにも取材した。そして、司法委員会で証言するまでの経緯や、さまざまな意見や慣習、政治的勢力、恐怖心などがいかに彼女を追いつめていったかについても本書にまとめている。

歩行器を手に法廷に現れたワインスタイン ©AFLO

取材に応じた女性たちは今、どうしているのか?

 証言の後、彼女はどうしているか、多くの人が案じている。本書の「終章」には、非常に貴重な集団インタビューが収められている。フォードをはじめ、取材に応じてくれた女性たち(それぞれが異なる記事に登場している)に集まってもらった。フォードの旅路にも、見過ごすことのできない大きな問題があった。それは、なにが進歩を妨げたり促したりするのか、という終わりのない問いだ。#MeToo運動はこの時代に社会が大きく動いた格好の例だが、それは同時に試金石でもある。このばらばらになった状況で、男女双方にとって公平な規則と保護という新しい組み合わせを作り出すことができるのだろうか。

 本書は、アメリカの女性たちのあいだで起きた2年間の驚くべき記録である。この記録はあの2年間を生きたすべての人のものだ。秘密を隠蔽する政府や、企業の秘密を扱う調査報道とは違い、わたしたちの調査は、多くの女性が生活の場や職場、家庭、学校で体験したことをもとにしている。とはいえ、わたしたちがこの本を書いたのは、みなさんをできる限り#MeToo運動の発端へと引き戻したかったからだ。

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 あの出来事をできるだけ直接かつ忠実に再現するために、本書ではインタビューや電子メール、その他のさまざまな文章を引用した。ワインスタインの件で映画スターたちと初めて話し合ったときのメモ、弟のボブ・ワインスタインが兄に送った手紙、フォード博士のメールの抜粋のほか、直接入手した資料も入っている。もともとはオフレコ〔報道を前提としていない発言〕であったが、追加取材をして関係者に再度話を聞くうちに掲載が叶った発言もある。わたしたちが立ち会うことのなかった対話や出来事を描くことができたのは、さまざまな記録やインタビュー記事のおかげである。本書のなかの発言はみな、ロンドンやパロアルトまで出向いていき、3年間にわたって何百回もおこなったインタビューに基づいている。

その名を暴け: #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い

ジョディ・カンター ,ミーガン・トゥーイー ,古屋美登里

新潮社

2020年7月30日 発売