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声を上げた女性たちは今…「ハリウッドのセクハラ」取材記者が明かす“スクープの舞台裏”

『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』

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なぜ被害者は沈黙を強いられたのか?

 最初のワインスタインの記事が発表された後の公開討論などで、彼が女性に対しておこなったことに関して話し合われたことはなかった。もっぱら、どんな対応をすべきだったかが話し合われていた。しかしワインスタインは、合意なき性行為をしたという告発をすべて否定し続け、いまもわたしたちの報道が事実に反していると繰り返し主張している。ワインスタインのスポークスマンは、わたしたちが彼の犯罪を立証した記事に対する回答を求めたとき、「あなたがたの記事にあるのは非難や言いがかりであって、完璧な事実はない」と述べた。

 本書は、2017年のワインスタイン報道をおこなう過程でわたしたちが知った情報と、それ以降に収集した大量の情報とで成り立っている。ワインスタインに関する新しい情報もかなり加えられているが、それは被害者に沈黙を強い、いまも社会の変化を妨げているのが司法システムと会社の雰囲気であることを理解するうえで役に立つはずである。

女優のアンジェリーナ・ジョリーもワインスタインからの被害を告白した ©AFLO

 ビジネスの場では、加害者を守ろうとする力が働く。また、女性を擁護する人のなかにも、犯罪を隠蔽するために示談に持ち込んで利益を得る者がいる。この問題に薄々気づいていた人は大勢いるのに――本書のために取材に応じてくれた、ハーヴェイの弟でビジネスパートナーのボブ・ワインスタインもそうだが――犯罪行為をやめさせようとはしないのだ。

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「#MeToo運動」が招いた混乱

 2019年5月、本書を執筆している今も、ワインスタインはレイプと他の性的虐待の容疑で刑事裁判を待つ身であり、女優や元従業員やほかの人々が彼に経済的責任を負わせるために起こした多くの民事訴訟も控えている。この裁判の結果がどうなるにせよ、ワインスタインがもたらしたもの――つまり彼が女性を騙し、女性に圧力をかけ、脅迫するために職場を利用してきたこと――の永久に残る記録として本書が読まれることを願ってやまない〔2020年3月11日、ワインスタインはふたりの女性への性的暴行の罪で、禁錮23年の判決を受けた〕。

 ワインスタイン報道が世に出てから数ヶ月も経たずに、#MeToo運動が爆発的な勢いで拡がり、デート・レイプから子どもへの性的虐待、男女差別、さらにはパーティでの出会いに至るまで、さまざまな問題が議論されるようになった。そのおかげで公共の場での会話は豊かになり真剣味を増したが、一方で混乱を招くことにもなった。つまり、この運動の目的は性的嫌がらせを根絶することなのか、刑事裁判システムを改革することなのか、家父長制を打ち砕くことなのか、それとも相手の感情を傷つけずに恋をすることなのか、と。その結果、裏付けのない証拠のせいで、あるいはそこまでいかなくとも、組織の変化が絶望的なまでに欠けているせいで、罪のない男性たちを傷つけることになってしまったのではないか。

著者のジョディ・カンターとミーガン・トゥーイー ©Martin Schoeller

 わたしたちがワインスタインの事件を報道してから1年近く経ったとき、カリフォルニアの大学の心理学教授クリスティン・ブレイジー・フォード博士が、アメリカ合衆国上院の司法委員会の公聴会に出席し、当時最高裁判事に指名されていたブレット・カバノーを、高校時代に酔っ払って彼女に性的暴行をしたと訴えた。カバノーは激怒してその容疑を否認した。フォード博士を#MeToo運動の最高のヒーローだと見なす人がいたが、その他の人々は、彼女をペテン師――増える一方のバックラッシュに対する弁護者――と見なした〔バックラッシュとは、ある動きが高まりを見せる時に生じる反撥(はんぱつ)、揺り戻し、バッシングのこと〕。