“今最もチケットの取れない講談師”こと神田松之丞改め六代目神田伯山さん。先ごろ、ご先祖さまが明治時代に南米へと渡って活躍した伝説の格闘家だったことが明らかになりました。しかも本人も長年のプロレス・格闘技ファン。『1976年のアントニオ猪木』『1984年のUWF』『2000年の桜庭和志』などで知られるノンフィクション作家の柳澤健さんとの「異種格闘対談」。(全3回の1回目/#2、#3へ)
「笑点」はプロレスか?
柳澤 私が初めて伯山先生とお会いしたのは4年前で、まだ松之丞さんだったころ。文京シビックホールで開催された会でしたよね。
伯山 そうです。私の「グレーゾーン」という新作の講談を、柳澤さんやプロレス関係者に聞いていただこうという会でした。終わったあと楽屋に柳澤さんがいらして。たぶんリップサービスなんでしょうが「面白かったよ」と言ってくれたのを覚えています。
柳澤 「グレーゾーン」はもちろん面白かったし、強く印象に残っています。だって、プロレスの話じゃないですか? 「笑点」の大喜利が、実はプロレス的なものではないかと。
伯山 まあ、あくまでも「グレーゾーン」ということで。私の勝手な妄想なんですが。
柳澤 当時「グレーゾーン」へのプロレスファンの反応はどうだったんですか?
伯山 イベント終了後、アンケートの中には「これはいいけども“情念”が足りない」というのもありました。そういうところは講談や落語のファンとけっこう似ているんですよね(笑)。
柳澤 全部ケチつけてくる(笑)。でも、それもまたプロレスファンなんでしょうね。
「笑点」の本を書くとしたら……
伯山 たとえば柳澤さんが「笑点」の本を書くとしたら、誰にインタビューしますか?
柳澤 「これ、本当に真剣勝負なの?」という疑問が浮かんだとする。その時に、春風亭昇太師匠とか三遊亭円楽師匠にインタビューをしたって意味がないですよね(笑)。
伯山 たしかに。でもおふたりは意外に明解に答えそうですけどね(笑)。全然違う話なんですが、歌丸師匠がお休みで、木久扇師匠が司会の時が一時的にあって。その時のノールールな感じは忘れられないんです。どんな状態でも、みんな成立させちゃう。単純にもう事故だったんですけど。
柳澤 それは最高に面白いと思います。
伯山 「笑点」のことを改めて考えてみると、落語家幻想に一役かっているんですね。機転が利いて、即興でシャレが言える。でもよく考えてみると、全くそれは落語に関係ないことなんですよ。一方、講談には笑点的なものがない。幻想もない。
柳澤 その差は大きいでしょうね。
伯山 ただ、仮に自分がスタンダードな「笑点」のことを考えるとして、型があるとしても、お客さんの前で、あんなに毎回盛り上げるのは本当に凄い技量だなあと。そっちのほうが凄いと考えてしまうんですね。まあ、いまは無観客ですけど。