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10匹中4匹のウサギが妊娠、出産した技術

 一方、もう一つの方法は遺伝的、あるいは事故など後天的な要因によって子宮を失った患者さんのために子宮を人工的に再建(復元)するための技術である。こちらは子宮の外科的な移植という方法で、すでにヒトでもいくつかの成功例が存在する。しかし、子宮の移植ではドナーを必要とすることから、どうしても実施できる数が少なくなるのと、移植手術が成功して出産できる確率がそれほど高くないことがわかっている。

 ごく最近、ウェイクフォレスト大学再生医療研究所のMagalhaesらは、子宮を切除したウサギの元の子宮の形に合わせて、2種類の生分解性ポリマーを組み合わせた「足場」を作り、そこにウサギ自身の子宮内膜由来細胞を生着させ、元の子宮と同じように働くバイオエンジニアリング子宮(bioengineered uterine)を作製することに成功した(参考文献4)。

 こちらは、子宮を失ったウサギの子宮を、生分解性ポリマーとウサギ自身の細胞を使い、ウサギの体内で復元し、交尾、妊娠、出産が可能となったと要約しよう。

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©iStock.com

 彼らは、この再建されたバイオエンジニアリング子宮を持つ雌ウサギと、雄ウサギを交尾させると、10匹中4匹が妊娠し、正常な子ウサギを出産することができたと報告している。通常のウサギと比べると妊娠・出産の成功率は低下しているものの、ドナーを必要としない点、患者自身の細胞を利用して子宮を再建できるという点で、実用化が非常に期待でき、実際、論文中で臨床試験のための研究を継続していると記述している。

 ちなみに、このウェイクフォレスト大学再生医療研究所は他にも人工膣など様々な再生医療技術の開発に成功している。

 このように、現状としては私たちがSF的に想像する「人工子宮」は“まだ”実現しそうにはない。しかし、最近の研究成果は十分に私たちを期待させてくれるものであるといえるだろう。

人工子宮の実用化には倫理的な問題がある

 これらの人工子宮の研究には予想していなかったような倫理的な問題が発生する可能性があることが報告されている(参考文献5)。もちろん、それぞれの研究は各研究機関や管轄の行政機関の倫理審査を受けて、厳しくチェックされながら実施されている。しかし、バイオバッグのように、これまでとはまったく異なる生殖の様式を提示する可能性がある場合(例えば、バイオバッグからの出産など)、ヒトへの応用は慎重に行う必要があるとRomanisは論じている。また、EXTEND の開発者であるPartridgeらも論文のなかで、バイオバッグ中の胎児を見ることによる母親の心理的な影響について考察しており、こちらの面での検討も必要になるだろう。