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又吉直樹が語る「コントには綾部が必要なんです」

“テレビっ子”又吉直樹が語る「テレビのこと」#3

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「波に乗れなかった」僕らにとっての『はねるのトびら』と『ピカルの定理』

――又吉さんが大きく関わったユニットコント番組といえば、2010年に始まった『ピカルの定理』です。フジテレビ伝統のユニットコント番組に出演するときの気持ちはどんなものでしたか?

 

又吉 いやそれは、うれしかったですよ。『オレたちひょうきん族』『やるならやらねば!』『ごっつええ感じ』『めちゃイケ』といったフジテレビのコント番組の歴史からしても、フジテレビのコント番組にレギュラーで出るというのは、芸人で言うたらスターの証みたいなものですから。僕らに近い先輩後輩では『はねるのトびら』(2001年放送開始)に1期上のロバートさん、インパルスさん、同期のキングコングとかが出ていたんです。「波に乗れなかった奴ら」の僕らは、それを10年くらい、いろんな気持ちを持って見てました。だから話が来たときには「コント番組できんねや」って、すごく不思議な感覚でしたね。

『ピカルの定理』には『フジ算』という前身になる番組があるんです。これに声をかけてくれたディレクターが、僕らピースと、ノブコブ(平成ノブシコブシ)、ハイキング(ウォーキング)さん、イシバシハザマとでやってた「ラ・ゴリスターズ」というユニットのコントライブを観に来てくれていたんです。上京して10年以上経っていましたけど、自分がコントとか、ネタを書き続けてきた成果がやっと出せたのかなって、嬉しかったです。

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――ライブでのコントとは違う、テレビでのコントで戸惑ったことはありませんか?

又吉 テレビのコントとライブ用コントの作り方で、違うんだなあと思ったのは「キャラとフレーズ」の作り込み方でした。テレビはやっぱりキャラをいかに立たせるか、いかに覚えやすいフレーズで目立たせるか、なんですよ。僕はそういうことをあんまり考えたことがなかったので、新鮮でしたね。

 

――又吉さんがそれまでライブ用に書いていたコントは、どちらかというと物語重視というか……。

又吉 そうですね。だから『ピカルの定理』でも構成作家さんやディレクターさんの提案に、展開面で僕が参加することはありました。ここでこういう流れになっていくのはどうですかとか。僕と(渡辺)直美でやってたギャル男コントみたいのがあったんですけど、あの設定は用意してもらって、ワードとかは自分で考えていったんです。すると、僕はどうしても物語が欲しくなってくるんですよ。

――そのギャル男の背景とか。

又吉 そうです。こいつ、すごいカッコつけてるけど、元々はこんなやつじゃなくて、過去を知ってる先輩が現れるとヘコヘコして、そこに彼女が狙われる展開を入れて……みたいな物語を提案したんです。それで僕がやるギャル男の先輩役をノブコブの徳井くんにやってもらったら、徳井くんのキャラがめっちゃはねちゃって、僕がサブキャラに降格(笑)。徳井くんに完全に食われましたね。

――『ピカルの定理』を一緒にやってたメンバーとは、ライバル意識と同志意識、どっちが強かったですか。

又吉 同志意識が強かったですね。綾部と(ノブコブの)吉村くんの間とかではもちろんライバル関係みたいなのはあったと思うんですけど、僕は吉村くんが演じる2時間の舞台に脚本を書いたこともあったし、ノブコブとピースと直美って元々がっちり肩を組んでたメンバーなんで仲は良かったですよ。

 

「お客さんにウケなあかん」ばかり考えてる時に、後輩から言われたこと

――浅草で「さよなら、絶景雑技団」のコントライブの1回目が開催されたのは、ちょうど『ピカル』が始まる1年前(2009年)なんですね。

又吉 これは、しずるとかライスのような後輩たちに、「又吉さん、もっと面白いことやりましょうよ」って誘われて始めた公演なんです。でも、声がかかったときに思ったのは「なんでこいつら俺のことをそんな、できる奴やって思ってんやろう」ってこと。疑心暗鬼だったんですよ(笑)。

――あはは(笑)。

又吉 それで後輩の言ってること、いろいろ考えたんですよ。で、ピースとしてやってるコントというのは、綾部をいかに面白く見せるかで関係性を作っていくんですけど、そういうのを全部とっぱらったときに、又吉さんはどういうコントを作るんですか、と問われている気がしたんです。確かに、『ピカル』前夜というか、あの頃の僕らは各コンビ、時代の流れとか、お客さんにウケなあかんみたいなことばかりを考えてる時期でもあったんですよ。そういうのを一回忘れたうえで、又吉さんの面白いことをやってくださいよって後輩たちは言ってくれてるんや、と。これはものすごい怖い子たちやな、めちゃめちゃ笑いに厳しい奴らやなと思って。それで、ずーっと1年くらい、深刻な表情だけを作って逃げてたんですよ(笑)。

――コントの台本作りから逃げてたんですね。

又吉 ところがある日、吉本の社員さんから浅草でライブできる日があるよと聞いて、「ああ、ここや」と腹くくって。それでもう、むちゃくちゃ気合入れて、1回目の会議の時に、「じゃあ、まず俺がなんとなくやりたいもん言うわ」って、ホワイトボードにコントの案をいっぱい書いたら、後輩から「もう5時間分ぐらいありますよ」って(笑)。

――5時間分!

又吉 正直ビビってたんですよ。後輩たちに「あれ? 面白くない」とか言われたらどうしようって。でも中学校とか、芸人になりたいと思ってた頃の自由な発想に戻れた気がして、楽しかったです。