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モニタ越しに見る永瀬叡王の顔色も赤くなっている

 さて、再び盤面に戻ろう。

65手目、▲8九歩まで(ニコニコ生放送より)

 豊島竜王・名人は、残り時間6分から1分を使って、この手を打った。△同飛車なら、一歩を犠牲に玉のラインから飛車をそらすことができる。森内九段によると先手が少し有利になったということだ。永瀬叡王はここで持ち時間を使い切って、▲8九同成香と指した。

 83手目、豊島竜王・名人が▲7九歩と永瀬叡王の攻めを受けている状況では「先手が明確によくなっている」と杉本八段。コンピュータの評価値でも、先手の豊島竜王・名人が1000点以上優勢になっている。正確に指せば先手が勝つということだ。しかし、後手の陣形は固く、しばらく先手が攻められる展開になる。秒読みでこれを勝ち切るのはたいへんだ。

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128手目、△4一銀まで(ニコニコ生放送より)

 永瀬叡王が上着を脱いだ。対局室はそうとう涼しいはずなのだが、熱くなっているのだろう。モニタ越しに見る顔色も赤くなっている。すでに対局開始から3時間が経過している。

 思わず、「この将棋も長くなりそうですね」と言うと、森内九段は「まだまだ、あと30手はかかりますよ。強い人の将棋はなかなか終わらないんです」と言った。

おたがいに「絶対に負けたくない」と言わんばかりの手

137手目、▲5五角まで(ニコニコ生放送より)

 豊島竜王・名人のこの手は、失着だった。詰めろなのだが、次の△5四歩がそれを受けつつ角取りの先手になってしまう。角が逃げるしかなく、次もまた後手の手番なので、これでは永瀬叡王が2手連続して指しているのと変わらない。形勢はだいぶ接近した。

 その後、秒読みの中、おたがいに「絶対に負けたくない」と言わんばかりの手を指し続ける。永瀬叡王が龍を自陣に引いたときには、控室では悲鳴のような声があがった。そこまで全力で守るのか。一般的に横歩取りの将棋は早く決着がつくとされているが、指し手はとうとう、持将棋となった前局の207手を超えた。

232手、△5七角まで(ニコニコ生放送より)

 最終手以下は先手玉が詰んでいる。両対局者は急いでマスクをつけ、そのまま豊島竜王・名人が投了した。

 今日の対局は、2局合わせて、439手。終局時間は、日付が変わるわずか1分前、23時59分だった。

感想戦は、日付が変わってからも行われていた ©文藝春秋

 一番印象に残ったのは、永瀬叡王の、戦いが長くなることをいとわない闘志だ。それによって、スマートでロジカルな二人が、おたがいの感性や意地をぶつけあう勝負になったのだろう。

 棋士がAIで事前研究をするのは、ロジックから求められる指し手と、人間の感性の交錯するポイントを探す作業だと思う。そして本番では、棋士は、感性で指し手を表現するクリエイターになる。

 ロジックと感性の交差点から、人間同士の感性と感性のぶつかり合いまで、現代将棋のおもしろいところをすべて見せていただいた対局だった。両対局者、そして関係者のみなさま、本当にお疲れさまでした。

INFORMATION

第5期叡王戦七番勝負第4局 棋譜
http://www.eiou.jp/kifu_player/20200719-2.html

第5期叡王戦七番勝負第6局(2019年8月1日13:30放送開始)
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv326756293

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