みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えします。

中野信子さん ©文藝春秋

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Q マウンティングが止まりません――58歳・シングル・高校フランス語教師からの相談

 私は「あら、そうなの!」とか「よかったね!」のひと言が言えず、余計なことばかり言ってしまう女です。

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 たとえば友人がワインのウンチクを語り出せば、「フランスではそういう飲み方はしないけどね」。あるいは浦和に住む友人が『住みたい街』の8位に浦和がランクインしたことを喜べば、「同じ埼玉でも大宮は4位だけどね」。そしてバツイチの友人の再婚が決まれば、「お相手は65歳の年金暮らしって、まあ老後が心配」。さらに友人の夫が定年後に東大大学院に入ったと聞けば、「東大は東大でも大学院は入りやすいのよね」──このような上から目線のひと言を放つのです。

 子どもの頃からこうです。既にアラ還となりましたが、できれば平成とともに、かわいくないマウンティング女を終わらせたいのですが。

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A 相手が気持ちよく自慢話をしていると、ついツッコミを入れてしまいたくなるんですね。「どうしていつもひと言多いのかね」と言われるタイプかもしれませんね。でも、それはご心配されているような「マウンティング」ではないのではないでしょうか。自分のほうが優位だと誇示して相手の上に立とうとしているのではなく、とても素直に本当のことを指摘しているだけのように私には見えます。

 たとえばワインの飲み方。フランスに暮らしたことのある森茉莉さんのエッセイでも、フランスの庶民はけっこう雑な飲み方をしているものだということが描かれています。むしろ日本人のワインへのこだわりが強すぎて、それこそ純粋に味を楽しむのでなく、マウンティングのツールに使っているようにも見えますよね。

 埼玉の中では大宮の方が浦和より人気で上位であることも、東大の大学院についても、まったくその通りだと言うほかなく、いちいちすべて事実です。ご相談者様は、淡々と本当のことを述べているだけに過ぎないのですが、ワインがどうだとか、浦和が8位だとか、再婚したとか、東大の大学院に入ったとかをおっしゃるご友人の耳にはたしかに痛いものかもしれません。

 痛いだろうな、ということを想像できるご相談者様の想像力、そして、想像できてしまっても本当のことを言うのをやめない度胸に敬意すら感じます。