みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えします。
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Q 幸せが怖いんです――50歳・シングル・商社総合職からの相談
私は幸せなことがあると、これは不幸の前触れだ、きっと何か悪いことが待っている、と考えます。たとえば、学生時代に男子から告白されたり、大人になって男性から交際を申し込まれたりしても、きっとこの男は心変わりする、私は振られると思い、受け入れずにきました。仕事で抜擢されそうになっても、なんのかんの言って断っています。
現在、自分がさして不幸だとは思っていませんが、あれ? このままでいいのかなという迷いも生じています。私の人生、このまま「幸せの絶頂」を知らずにいくのでしょうか。
A おみくじで大吉を引くとブルーな気持ちになる人が一定数います。こういう方は、大吉を「引いてしまった」と思うんですね。いいことが起こってしまったから、次は不幸になるんだと根拠なく自動的に考えてしまう。特に日本人に多いようです。
なぜ、こういう人が一定数いるのか。特に日本に多いのか。
単純なことです。そういう人のほうが生存に適していたから、数が増えたのです。
アメリカ・スタンフォード大学のターマン教授が10歳の子ども1000人以上の人生を足掛け80年追跡し、性格傾向との相関を調べるという研究を行っています。この実験でわかったことは、真面目で慎重で粘り強く、不安な気持ちが強い子どもが長生きしたということ。陽気で楽観主義の人はむしろ短命でした。
一見、意外な結果に見えると思います。陽気で楽観的であると健康に良いと喧伝されますよね。確かに、笑うことが免疫力を上げるという認識を多くの人がしていますし、短期的には健康にいいと言えそうです。ただ、長期的にはリスクを回避できる能力のほうが大事だ、ということがこの研究から示された形です。ターマン教授の実験・研究を引き継いだフリードマンは、やや過剰とも受け取れる表現ですが「楽観主義は高コレステロールと高血圧並みに危険だ」と言っています。