川を越えて脱北する新ルート?
近年、厳しい国境管理で脱北者が激減しているが、数年前まで脱北の主要ルートは中国との国境にある数十~数百メートルほどの川幅の河川を越え、中国国内での潜伏生活を経て東南アジアに越境し、韓国の保護下に入る、というものだった。
北朝鮮の幹線道にはいくつも検問があり、特に南方面に向かう移動のチェックは厳しい。たとえ、韓国との境界線近くにたどり着いても、哨所の監視、DMZの地雷、鉄柵線の高圧電流が行く手を阻み、地続きでの越境は一般人にとって極めて難しい。
一方、驚くべき脱北ルートが今年7月末、北朝鮮発のニュースで明らかになった。
朝鮮中央通信は7月26日、金正恩党委員長が党中央委員会政治局の非常拡大会議を緊急招集し、新型コロナウイルスの感染が疑われる脱北者が戻っていたと発表。公称1人目の感染者(?)に最大非常態勢を敷き、脱北者がうろついた開城市を完全封鎖した。
韓国メディアによると、脱北者は20代男性で、2017年に脱北した際は漢江(ハンガン)の河口を泳いで韓国側の喬桐(キョドン)島に上陸したという。そして、北に戻る際も、喬桐島の東隣にある韓国・江華(カンファ)島の鉄柵の下の排水路から河岸に出て、北側まで泳ぎ切ったというのだ。両島とも筆者は近年、現地了解(視察)している。
確かに韓国側の鉄柵周辺で写真を撮影していても誰も何も言わないユルさはあったが、向こう岸まで短くて1・6キロ、概ね2キロの距離があり、川や潮の流れの影響を受ける。若さと体力があっても死と隣り合わせだろう。
結論、南北は簡単に行き来できない。軍事境界線を研究した視点からみると、リ・ジョンヒョクとユン・セリがロマンチックに国境を行ったり来たりする姿は、さすがにリアリティを感じないのだ。