韓流ドラマ「愛の不時着」を、“朝流(北朝鮮)ファン”の目線で観たらどうなるか。前編では小道具を中心に紹介した。後編では国境警備に当たる朝鮮人民軍について検証していく。リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)率いる第5中隊のようにアットホームな雰囲気は実際にあるのだろうか? 最前線の哨所を訪れたことのある日本人が、リアルな「愛の不時着」を証言する。(全2回の2回目/#1より続く)

(*以下の記事では、ドラマの内容が述べられていますのでご注意ください)

リ・ジョンヒョク役のヒョンビン ©getty

ヒョンビンの職場にイケメンはいたか?

「あのドラマでやっている現場を見に行ったことがあるよ」

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 こう語るのは、将来の日朝貿易を見据えて、経済視察のために訪朝した経験がある大阪府内の男性、Aさんだ。

北朝鮮のリアル警備兵(中朝国境)(筆者撮影)

 北朝鮮を訪問した観光客や視察団は、南部の開城(ケソン)観光のついでに板門店(パンムンジョム)に立ち寄る。南北の会談場があり、2019年6月にはトランプ米大統領と金正恩党委員長が歴史的な握手をした舞台として、注目を浴びた。

 北朝鮮側から板門店を観光した経験のあるAさんは「違ったところに行きたい」と、現地受け入れ機関に要請。担当者が、かなり骨を折って折衝を重ね、朝鮮人民軍の軍事境界線を監視する哨所の見学を許されたという。

わりとイケメンの北朝鮮警備兵(板門店)(筆者撮影)

崩れかけた家だらけ

「平壌から高速道路を通り、開城に入る。その後、舗装されていない田舎道を進んでいった」(Aさん)

 何度も北朝鮮を訪れたことのあるAさんだったが、哨所に向かう道すがらが「一番ヤバかった」と証言する。

「周辺の集落がすごく貧しい。デイリーNK(韓国の北朝鮮専門サイト)が時々、報道するような隠しカメラで撮影した北朝鮮の潜入映像が、目の前で広がっていた」

tvNホームページより

 招致機関のセダン車で向かったAさん。窓の外には、崩れかかった家々が次々に目に入ってくる。路上には一面に籾殻のようなものがぶちまけられている。行き交う車のタイヤに穀物を踏ませて、脱穀機代わりにしているようだ。

「食料不足なのか、周辺の山肌をはじめ、ありとあらゆる土地が耕地になっていた。住宅地も玄関先までが畑だった」