日本に韓流ブームを再燃させた「愛の不時着」。軍事境界線を守る朝鮮人民軍大尉のリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)が、嵐の中、パラグライダーで非武装地帯に墜落したユン・セリ(ソン・イェジン)を救助、自宅にかくまって恋に落ちるストーリーに韓流ファンは夢中になっている。

 一方、日本にも少なくない筆者のような“朝流(北朝鮮)ファン”には、「ちょっと待てよ?」と口を挟みたくなるシーンも少なくない。マニアの目線で本作をみると、北朝鮮が激怒したというポイントも見えてきた。(全2回の1回目/#2へ続く)

(*以下の記事では、ドラマの内容が述べられていますのでご注意ください)

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「愛の不時着」の出演者。左からヒョンビン(リ・ジョンヒョク役)、ソン・イェジン(ユン・セリ役)、ソ・ジヘ(ソ・ダン役)、キム・ジョンヒョン(ク・スンジュン役) ©時事通信社

マニアも唸る「凝った小道具」

“朝流ファン”は、歌が好きな人、アニメが好きな人、軍装が好きな人、美女が好きな人、犬が好きな人など、専門分野が細分化される。筆者は、「北朝鮮グッズ」と呼ばれる軽工業品と加工食品のマニアなので、ドラマ序盤から中盤にかけ、軍事境界線近くにあるチャンマダン(市場)で取引される北朝鮮っぽい小道具に惹き付けられた。

 第4話に、ジョンヒョクがセリのために市場でコーヒー豆を探すシーンがある。一瞬だが、店先には「光明」「タンポポ」といった銘柄のタバコが映り込む。これは正真正銘の北朝鮮タバコ。そばにある袋入りのインスタントコーヒーも本場のモノっぽい。わずか数秒のシーンに北朝鮮グッズを紛れ込ますとは、マニアを唸らす凝った演出といえよう。

チャンマダンのシーンで売られていた北朝鮮タバコと同種のタバコ(筆者撮影)

「南町の棒コーヒー」をなぜ勧めたのか

 この屋台のシーンで、店員はジョンヒョクに「南町の棒コーヒーならあります」と答える。「棒コーヒー」とは、南町=韓国の飲食店や一般家庭ならどこにでもあるスティック状のインスタントコーヒーを指している。

 実は「棒コーヒー」、すでに北朝鮮国内でも生産されている。わざわざコストのかかる「南町の棒コーヒー」を勧めるのは違和感があったが、「北のコーヒーは不味い」という内部情報もある。ひょっとしてお店の人はそこに気を遣って、味のいい「南町の棒コーヒー」を勧めたのかもしれない。

北朝鮮のスティックコーヒー(筆者撮影)

 同じ市場で、ジョンヒョクがシャンプーを買い求めるシーンや、セリが村の女性たちと化粧品を品定めするシーンもあるが、いずれも店主は机の下に隠してある南町=韓国のモノを勧める。

市場で化粧品を選ぶジョンヒョク(韓国tvNホームページより)