1ページ目から読む
4/4ページ目

理不尽な金銭の要求

 想像を絶するたかりもあった。取材に出かけ、帰途に着いた際、さきほど取材した暴力団幹部から電話があった。

「あんたたちが帰ったあと、版元の社長と名乗る人間から電話があり、野球賭博を受けてくれと言われた。初めて話す人だったが取材とタイミングがばっちりあっていたので信じ、100万円受けた。社長と名乗る男が負けたので、精算の電話をしたが出ない。お前らグルだろう。損害300万円弁償しろ!」

©iStock.com

 当然そんな事実はないし、そもそも知らない人間から野球賭博を受けるのがおかしい。このときは1週間近く恫喝された。上部団体の幹部にも知り合いはいたが、あまりに馬鹿げた話なので打ち明けられない。結局元暴力団の人間が入ってくれ、300万円を払うことはなかった。

ADVERTISEMENT

一般人にも無縁な話ではない

 先日、長い懲役を終えてこの団体の会長が出所してきたので、「別に言いつけようとか文句を言おうというつもりはありませんが、こんなことがあったんです」とインタビューの席で打ち明けた。「完全なヤカラ(言いがかり)やないか。誰や、いつや」と犯人捜しになってしまい、話を打ち切るしかなかった。私は暴力団と下からコンタクトし、接触するたびに何度も嫌な思いをした。一般人だってそういった経験をしている人が多くいるはずだ。

潜入ルポ ヤクザの修羅場 (文春新書)

鈴木 智彦

文藝春秋

2011年2月17日 発売