組員の前でクレジットカードを折る
山口組組員2人に、大阪市内の韓国料理屋で取材したときのことだ。
「ここの勘定はあっこのライターさんが払ってくれるそうや」
「兄弟、そりゃそうやで。わしらはネタを提供してるんやからな」
思い切り飲み食いして、山口組組員たちは満足そうだった。
「今夜はスポンサー付きや。朝まで飲もうやないか」
「メシ食い終わったらミナミでも行こか。それとも新地がええか。東京の先生を案内せんといかんからのう」
後ろ盾を持たないフリーライターにここまでたかってくる場合、よほど癖の悪い暴力団と判断し、すっぱりそこで諦める。どうしても証言が必要という弱みがあったり、テレビの取材などなら、実際、新地の高級クラブを数軒回るハメになるだろうが、これ以降の飲食は原則的に拒否する。
こちらの身丈を超えた要求をしてくるのだから、しょせんその程度のレベルで、証言の信憑性だって薄い。まずは原稿にはしないと明言する。実際どうするかは、あとあとゆっくり考えればいい。雑誌をチェックされるだろうが、固有の事件でない限り、他に流用は効く。ばれっこない。
このときもはっきり断った。すると組員たちは「せやったらわしらだけで行くわ。金くれ」と粘ってきた。
「嫌です。それに記事にはしません」
「そんなのあんたの都合やないか。わしらの話を使おうと使うまいと、取材に時間とられたことは同じや。日当は払ってもらうで」
「金はありません」
「ええねん。クレジットカード持ってるやろ。ここのママとは友達やねん。ここであんたにカードで20万円払ってもらって、バックしてもらえばええ」
こうなった時は居直って警察を呼ぶべきである。しかし、腕ずくで無理矢理というケースがある。もちろんすぐに警察に出向くが、地位も財産もないチンピラの場合、被害にあった金は戻ってこない。逮捕されることを厭わないやけっぱち組員からの被害を防ぐためには、クレジットカードを持ち歩かないに限る。このときは目の前でクレジットカードを折った。プチ乱闘――といってももみ合い程度で、こちらが一方的にやられていただけだが、その後、組員たちは逮捕された。お礼参りはまったくなかった。