話を裏付けるものは見つからなかったが……
そのお年寄りは、この事件が元で廃村になったという事は無いかも知れないが、子供や孫を授かると、自分たちの家族が奪われるのを恐れた人達が、続々と引っ越していったのは間違いない事実だと教えてくれました。
この話を聞いてから、役所や村の関係書類なども調べましたが、話を裏付けるものは見つかりませんでした。
しかも、この話は怪談小説のようにも思えたので、どうせ年寄りの作り話だろうとみんな信じてくれませんでした。ただ、直接電話で話を聞いた僕だけは、話し方やしっかりした口調にとても嘘だとは思えませんでした。
だからといって、この村に行かないという選択をするわけではなく、出発の準備をして、村へと向かいました。
最後のコンビニで休憩を取る事に
僕たちは、テントや寝袋、食料などを各自持ち寄り、電車を数回乗り継ぎながら、廃村を目指しました。ところが、目的の駅に着いた時には、すでに夕方近くになっていました。到着した駅から、目的の村までは、まだ車で数時間はかかる距離です。急いで駅の近くのレンタカーに乗り換え、そのまま村に向かいました。
途中、青木君がトイレに行きたいと言いました。そこで、恐らくここが最後のコンビニだろうと思える所で小休憩を取る事にしました。
飲み物やお菓子、パンなども少し買い込んで、みんな車に戻りました。でも青木君だけが、戻ってきませんでした。トイレにいっているのだろうと車で待っていましたが、何分経っても戻ってこなかったので、呼びに行こうとしたその時、青木君がやっと戻ってきました。
「長かったけど大丈夫? 具合でも悪いの?」
そう聞くと頷くだけで、返事はありませんでした。
ここから村までの道は、山道や林道などをいくつも超えて、真っ暗な道を通りながら進むので、車酔いも心配しましたが、青木君は大丈夫だと小さく頷いていました。
そして、数時間の車移動の末、ようやく目的の廃村に着きました。到着時刻は、途中少し道に迷った事もあり、夜の9時を回っていました。
(後編に続く)
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