オランウータンの凄すぎる「共感能力」
「好奇心旺盛な彼らはガラスの向こうからお客さんのことを本当によく見ています。毎日見にきてくれるお客さんもいましたから、そういう方たちがこれだけ長い時間こないということは、何か普通じゃないことが起きている、ということは、はっきり理解していると思います」(同前)
“森の賢人”とも称されるオランウータンだが、彼らを担当するようになって8年という李さんによると、その人間に共感する能力は、私たちの想像をはるかに超えている。
例えば、レンボーが2月に赤ちゃんを出産したときのこと。出産直後に李さんたちがチェックしたかったポイントは、(1)72時間以内に授乳するかどうか(その時間を超えると、人工飼育に切り替える必要がある)(2)赤ちゃんがオスかメスか、だったというが――。
「そんなことを考えながら、僕が顔を出した途端に、赤ちゃんを抱えて連れてきて、赤ちゃんの足をバッと開いて、こっちに見せてきたんです。“ほら、男の子だよ”とばかりに。
たぶん前回の出産で、僕たちが赤ちゃんの性別をチェックしようと、一生懸命のぞきこんでいたのを覚えていたのかもしれません。で、それが終わると、すぐにおっぱいをあげはじめた。10分もしないうちに、こっちがやりたかったことはすべて終わってたんです」(同前)
筆者が李さんの話を聞いている間も、レンボーは赤ちゃんを抱えて、ガラスの最前列でカメラを構えるカメラマンの前にやってきた。薄暗い室内での逆光のためレンボーの表情さえ見えずにカメラマン
そういう彼らだけに、李さんたちもこの休園期間中に細心の注意を払っている。
「例えば、毎朝、ブドウを1粒ずつあげるというようなルーティンはすごく大事です。今日も安定した一日が始まるよ、というメッセージになるから。一方で、その安定した一日の中にちょっとした変化だったり刺激だったりを加えるようにしています。例えば、いつもは皮のままあげているニンジンの皮を一部剥いてみる、とか、エサを遊具のいろんなところに隠してみる、とか、あるいは、わざと何もしないで放っておく、というのも刺激になります」(同前)
そのうえで最後に李さんは、こう語った。
「やっぱりいつもと違うという違和感ははっきり感じているし、きっと不安もあるはずなんです。だけど彼らは状況の変化を受け入れて、それに対応して、生きているんですね。その点は、僕ら人間のほうが学ばされます。とにかく再び開園した日に向けて、今できる限りのことをちゃんとやって、あとは受け入れるしかないんだよな、って」
動物園に子供たちの歓声が戻ってくるのはいつになるのか、まだ出口は見えない。だが動物たちはそれぞれのやり方で、その日が来るのを、じっと待っている。
撮影/伊藤昭子
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