「『コロナでグローバリゼーションは敗北した』『これからは国内回帰だ』と論じる識者が多く見受けられるようになりました。しかし私は、これをもって『グローバリゼーションの終焉』と判断するのは大きな誤りだと考えます。そもそも、日本が生き残るためには、積極的に世界に飛び出し、グローバルな土俵でイノベーションをし、生産性を高めて勝負しなければなりません。鎖国時代に戻るようなメンタリティではいけません」
こう指摘するのは元・中国大使で日中友好協会会長の丹羽宇一郎氏だ。丹羽氏は「文藝春秋」8月号のインタビュー「日本よ、『鎖国』するな」で、コロナ禍で広がる「反グローバリズム」と「国内回帰」の機運に対して警鐘を鳴らしている。
グローバリゼーションは失敗だったのか?
「もともとグローバリゼーションは、人為的な法律や制度から始まったものではありません。1980年代後半、米ソ冷戦構造の終焉と同時に、国境を越えた経済活動が拡大した。さらに90年代にITが急速に発達し、情報社会が生まれて世界中をヒト・モノ・カネが盛んに行き交うようになった。歴史をさかのぼれば、ローマ帝国の拡大や15世紀末からの大航海時代も19世紀以降の帝国主義もグローバリゼーションのひとつです。つまり、これは、世界史の必然的な流れなのです。
人類は社会的生物です。集まってモノや情報を交換し、一緒に何かをやりたいと考える。人類はそうして文明を生み、発展させてきました。今回の短期間のパンデミックだけを切り取って、『グローバリゼーションは失敗だった』とする論評は一見もっともらしく聞こえるかもしれない。しかし、コロナ禍が収束すれば、また集まって一緒に何かやろうと動きだす。それが人類の習性です」
その中で、丹羽氏が特に注視しているのがアメリカだ。トランプ大統領は「グローバリゼーションより自国第一主義」を表明している。
トランプの反中国で思い出す「赤狩り」
「(トランプ大統領は)中国との貿易不均衡を訴えて関税競争を繰り広げ、また中国がハイテク分野における技術盗用やサイバー攻撃を国家ぐるみでおこなっているとして、強く批判しています。さらには新型コロナの被害拡大は中国に責任があると強く主張し、中国と関係が深い世界保健機関(WHO)には資金提供しないと言い出しました。世界貿易機関(WTO)にも、同様の理由で改革を求めたり、離脱をほのめかしたりしています」
トランプ大統領が反中国の姿勢を強め、国際社会を巻き込む様子を見て、丹羽氏は70年前にアメリカで行われた「赤狩り」を思い出すという。