2020年上半期(1月~6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。裁判部門の第3位は、こちら!(初公開日 2020年6月22日)。

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 スマートフォンやタブレットといったモバイル端末が普及し、いまや1人1台が当たり前の時代になっている。電話やメールはもちろん、SNSを通じていつどこにいても任意の相手と連絡を取ることが可能になった。

 通信技術の進歩は私たちの生活に利便性をもたらす一方、使い方を誤れば容易に暗い影を落とす原因となってしまう。端末のデータは本人以外の目に触れにくいため、子どもが何か問題を抱えていても保護者が気がつきにくい。その閉鎖性によって、「ネットいじめ」が加速しているという。

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 長年ウェブと生きづらさをテーマに取材を進めているライター・渋井哲也氏の『学校が子どもを殺すとき』(論創社)より、一部を抜粋する。

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LINEいじめと調査委員会をめぐる混迷――奈良県橿原市いじめ自殺

 2013年3月28日の8時前後、菜絵(享年13、仮名)が自宅から徒歩数分のマンション7階から飛び降りた。

 この日、菜絵は所属するテニス部の試合だったが、寝坊してきた。母親の亜弥(仮名)が家事をしていると、菜絵がリビングのドアを開けた。

「ママ……」

「どうしたの?」

「今日、試合やった」

 元気がなさそうだったが、亜弥の頭に浮かんだのは「お弁当を用意しないといけない」ということだった。

「すぐ作るから、そのあいだに用意しといて」

「ユニフォームがない」

「あるよ。あとで(部屋に)見に行くから」

 いつもならお弁当のほかに菓子パンを持たせるが、急だったために用意できず、おにぎりを作った。菜絵さんが洗面所にいるのが見えた。ユニフォームを着ていた。

「ほら、あったやん」 

 元気を出そうとして、亜弥さんは少しオーバーに言い、菜絵さんを送り出した。

「気をつけていってきいや」

©iStock.com

 亜弥が菜絵を送り出し、洗濯物を干していると、固定電話が鳴った。学校からだった。なぜこんなに時間に電話があるのだろうか。「娘さんはもう家を出られましたか」と聞かれた。この電話で菜絵が飛び降りたことを知るが、「内容がショックすぎて、先の会話を憶えてない」と亜弥は振りかえる。

「蝶々かトンボを追いかけて……」事故に見せかけたい加害者の親

 亜弥は父親の修司と合流し、奈良県立医科大付属病院に車で駆けつけた。マンションから落ちたと聞いていた亜弥は、怪我を心配した。

 病院に着くと、学校の先生が数名いた。話を聞くと、菜絵は7階からの転落したのだという。亜弥は目の前が真っ黒になった。10時ごろ、執刀医が現れ、「もうこれ以上、娘さんを傷つけることはできません」と言った。「意味がわかりません。傷つけてもいいです。助けてください」と叫ぶ亜弥の背中を、彼女の母親が叩いた。亜弥は、菜絵が亡くなったことが理解できた。

 菜絵が亡くなった翌日(3月29日)の夜、学校でクラスの保護者会が開かれた。そのとき、欠席した保護者のひとりがやって来て、亜弥にこんなことを言った。

「きっと蝶々かトンボを追いかけて落ちたと思うねん。そう思ってあげて。みずからこんなことをする子やない」

 不審に思った。学校全体の保護者会のあとに開かれたテニス部の保護者会でも、その保護者は「いま、亜弥さんのところへ行ってきました。菜絵ちゃんは、蝶々かトンボを追いかけていたと言ってました」と不思議な発言をした。まわりの人たちに、菜絵の死を事故に思わせようとしている。のちにわかることだが、この保護者の娘がいじめの加害者だった。