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駐日ロシア大使が池上彰に答えた“北方領土問題”「交渉しているのは島々の問題ではないのです」

独ソ戦終結75周年の教訓

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ソ連が戦ったのはドイツだけではなかった

池上 プーチン大統領は、アメリカの雑誌「ナショナル・インタレスト」に、6月に論文を寄稿しました。「第二次大戦75周年の本当の教訓」という、その論文の中で、「多くの国々は、様々な協定にナチと西側の政治家の署名が並んでいることは、思い出したくもないようだ」と痛烈に批判していますね。

ガルージン そう、皆さんはとても大事なことを忘れていらっしゃる。「独ソ戦」の「ソ」という字は確かに正しいです。しかし、ソ連が戦ったのは「独」だけでなく「欧州」でした。ヒトラーと一緒に、イタリア、スペイン、ハンガリー、ルーマニアなどの欧州諸国がソ連に侵攻したのです。

M・Y・ガルージン駐日ロシア連邦大使 ©文藝春秋

レニングラード攻防戦で兄を失ったプーチン大統領

 大量の死者を出したソ連の都市の一つが、レニングラード(現・サンクトペテルブルグ)だ。1941年9月にドイツ軍に包囲されたレニングラードは、兵糧攻めに遭い、約900日の包囲で100万人以上が犠牲になったとされている。

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 プーチン大統領の兄も、レニングラード包囲時にジフテリアで亡くなっている。大統領が生まれる十数年前のことだ。池上さんは、レニングラード攻防戦で兄を失った悲劇が、プーチン大統領の性格形成に影響を与え、西欧諸国への警戒心が刻み込まれたのではと考えている。

就任20年のプーチン大統領

池上 甚大な被害を受けて、プーチン大統領は、二度とよその国から侵略されない強い国にするために、大統領である自分がより強い権力を持たなければと考えた。それで7月2日の憲法改正に踏み切ったと私は見ています。

 憲法改正では、プーチン大統領が83歳(2036年)まで、大統領にとどまれることが話題となりましたが、日本にとって注目すべきは、「領土の割譲に向けた行為を認めない」という、領土割譲禁止条項が盛り込まれたことです。一方でややこしいことに、「隣国との国境再画定は例外とする」とも付記されています。

 憲法改正作業部会とのテレビ会議で、プーチン大統領は、北方領土(ロシアでは、南クリル諸島)も領土割譲禁止条項の範疇にあるとほのめかしました。安倍政権は、平和条約の締結と二島返還を目指していましたが、これでかなり厳しくなったのではないでしょうか。