2020年、『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅著、岩波新書)という書籍が新書大賞を受賞した。このニュースを見て、「独ソ戦」に初めて関心を持った人も多いだろう。日本では、第二次世界大戦というと米英軍とナチス・ドイツが戦った印象が強いが、米英軍が戦ったのは、ソ連に深く攻め込み、スターリングラードなど東部戦線で疲弊しきった後のドイツ軍だったことはあまり知られていない。

 独ソ戦終結75周年を迎える今年、独ソ戦がソ連に与えた被害の大きさや、戦後ロシアに与えた影響について、池上彰さんがガルージン駐日ロシア大使に聞いた。

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コロナの影響で「独ソ戦終結75周年」の式典は延期に

池上 今年は、独ソ戦終結から75年の節目に当たります。ロシアの戦勝記念日の5月9日には、欧米や日本の首脳を招いた式典が首都モスクワで準備され、今年、就任20年を迎えるプーチン大統領にとって、威信を示す絶好の機会になるはずでした。

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ガルージン 残念ながら新型コロナの影響で式典は延期となりましたが、6月24日に、クレムリンの壁の前にある無名戦士の墓の記念碑にプーチン大統領が献花し、軍事パレードが催されました。

池上 先日、大使が執筆した「大祖国戦争勝利の歴史的意義」という文書を拝見しました。この中で大使は、「この出来事の意義と結果を認識することなく、今日のロシアという国およびその国民を完全に理解することはできない」と記しています。

1900万人の民間人が犠牲に

 ロシアで「大祖国戦争」と呼ばれる独ソ戦は、「すべてを戦線へ。すべてを勝利へ捧げよう」というスローガンのもと、西欧諸国と戦った国民全員の団結を示す象徴だ。戦後75年の今年6月には、祖国防衛の偉業をたたえる「ロシア軍主聖堂」がモスクワ郊外に誕生するなど、国威発揚の行事も相次いだ。

死者は推計2700万人(タス=共同)

 独ソ戦におけるソ連人の死者は2700万人。その内、1900万人は民間人だ(日本の戦死者は軍民合わせて推計約310万人)。また、第二次世界大戦において、時間的、地理的に最も大規模だった戦闘が独ソ戦線だった。独ソ戦について、ガルージン大使は、「最も重要な点は、西欧諸国はむしろ、ナチス・ドイツのソ連攻撃に有利な状況づくりに協力したこと」だと強調する。