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世界を肯定したくなる作品群

 会場には、多彩な絵画作品も並ぶ。須藤由希子の《枯れあじさい》は、自然界に溢れる線の美を再確認させてくれる。向かい合う壁面に掛かっているのは、杉戸洋《the dark mirror》とロゼリネ・ルドヴィコの《Pure Heart》《Jewely Rose》だ。いずれも淡い色調と細やかな筆致に覆われた画面に挟まれて室内に立っていると、思わず深呼吸したくなるほどに、場の空気が清澄なものに感じられてくる。

杉戸洋《untitled-21》2006 年 
© Hiroshi Sugito

 小さくて儚く繊細で、手のひらにのせて愛でたくなるような作品群もある。クリスティアーネ・レーアの《小さな塊》は、綿毛でできたオブジェ作品。自然の完璧なる造形美に改めて思いを馳せたくなる。

クリスティアーネ・レーア《小さな塊》2015 年 
Photo: Kenji Takahashi  © Christiane Löhr

 会場のそこかしこに、さりげなく設えられているのは須田悦弘の作品だ。本物と見紛う精度で草花をかたどった木彫が、壁面や室内の隅っこに飾られているので、よく目を凝らして探してみたい。ごく小さい草花を発見できた悦びと、それを観る眼の歓びは、とてつもなく大きい。

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須田悦弘

 レイチェル・カーソンは『センス・オブ・ワンダー』(新潮社刊・上遠恵子訳)の中で、こう書いている。

「地球の美しさと神秘を感じとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることはけっしてないでしょう」

 そう、まさにこの世を肯定し、ここが生きるに値する場であると再確認させてくれるのが、今展なのである。