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鹿賀丈史、松田優作、長渕剛、櫻井翔……4度の映像化『家族ゲーム』は30年をかけて何を描いてきたのか

鹿賀丈史、松田優作、長渕剛、櫻井翔……4度の映像化『家族ゲーム』は30年をかけて何を描いてきたのか

『3年A組~今から皆さんは、人質です~』にも繋がるテーマ性

2020/08/12
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 1983年、長渕剛版(TBS):時代は昭和。下町の団地住まい。父は自動車修理工場の社長。設定は原作に最も近いが、吉本も父(伊東四朗)、母(白川由美)も飄々として人情味がある。兄(松田洋治)、弟(三好圭一)もまんべんなく描かれている。主題歌『GOOD-BYE青春』は長渕剛の曲。

長渕剛 ©共同通信社

 2013年、櫻井翔版(フジテレビ):時代は平成。新興住宅地の一軒家。父(板尾創路)は一部上場企業の社員。母(鈴木保奈美)は専業主婦。兄(神木隆之介)、弟(浦上晟周)の問題とともに、吉本が何者かという謎解き要素もある。映画版で弟役だった宮川一朗太も出演している。

テレ朝、映画、TBS、フジが表現した、それぞれの「吉本」像

 発表媒体の特性も生かした各作は見比べると興味深い。純文学である原作の淡々とした描写をテレビ的なエンタメ作にするため、兄を教師に恋する姉に変えたのがテレビ朝日版。「おとなの2時間サスペンス」枠で放送したドラマの吉本先生は憧れの対象となった。

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 観客の想像力に委ねるシュールな映画版では状況を徹底的に俯瞰で描き、吉本先生は松田優作の怪演によって危うさを孕んだ正体不明の存在に。

 ホームドラマと学園もの(『寺内貫太郎一家』『3年B組金八先生』等)を得意とするTBSは、家族でいっしょに楽しめるものをつくり、長渕演じる吉本先生ははみだし者ながら正義のヒーロー、庶民の味方であった。

 ところどころ違いはあれば、どのバージョンも、学校での虐め問題、受験戦争に苦悩する子供の気持ちに親が気づけず、上辺だけの「家族」らしさをキープしている親たちの姿が、外から来た異物である家庭教師・吉本によってあぶり出されていくという流れで、子どもが肉体的にも精神的にも苦痛を味わうところは同じである。

『家族ゲーム』(DVDジャケットより)

 21世紀になってできた櫻井翔版の面白さはさらに複雑化していく。父母も世間から排除されそうになること、つまりある種の虐めの被害者になる。まるで、80年代に『家族ゲーム』を見ていた少年少女が大人になっても、変わらず世間からいじめられているように。そして、吉本先生まで問題を抱えている。櫻井翔は松田優作がつくりあげた虚無的な存在と長渕剛の熱をもった人間の中間くらいの吉本を演じていた。