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「心疾患と違法薬物の使用が関与」ジョージ・フロイド氏の解剖結果に見る“もう1つのアメリカ”

死者の声は何を語るか?

2020/08/14

genre : 社会, 国際, 医療

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 動画で拘束時の様子を観たという奥田氏は、その印象をこう語る。「フロイドさんは、会話は可能で、繰り返し呼吸苦を訴えていました。やがて反応がなくなってしまい、現場で心停止した様子が窺えます。単に頸部を圧迫されたために起きる気道閉塞ではなく、狭いスペースでうつ伏せに圧迫されたために胸郭運動が制限されて呼吸できなくなる、いわゆる“胸腹部圧迫による窒息”が死因に関与している印象を持ちます」

フロイド氏は“鎌状赤血球貧血症”を患っていた

 実はフロイド氏は2度、解剖されている。1回目は、ミネソタ州ヘネピン郡の監察医によって行われた。2回目はフロイドさんの家族が私的に要請した有名法医学医が執り行った。一般的に、米国では、1回目の解剖結果に遺族が不信感を抱く場合や、大きな話題になるケースでは、2度解剖を行うということも少なくない。

 2度の結果のうち、ヘネピン郡の監察医が行なった解剖レポートは、インターネットを通じて世界中のだれもが入手可能だ。米国は、個人情報の保護よりも市民の知る権利を優先する。いかにも米国らしいやり方だ。

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 まず、フロイド氏の健康状態はどうだったのか。奥田氏は「レポートによると、動脈硬化性心血管病の基礎疾患を持っていたことがわかります。また、心臓肥大に加えて、深刻な冠動脈狭窄症があることが記録されている」と指摘する。冠動脈狭窄症とは、心臓を栄養する冠動脈の血管が動脈硬化によって細くなった状態を指す。狭心症の原因にもなる状態だ。

 さらに、「黒人に多いと言われる鎌状赤血球貧血症も患っていたようです。これらから低酸素血症が心臓に多大な負荷を与えたことが推察される」と言う。鎌状赤血球貧血症は、赤血球が破壊されることで起こる貧血のこと。つまり、これらの持病が、圧迫による窒息を促したのである。

血液中から検出された3つの薬物

 また看過できない事実もある。薬毒物分析では、「フェンタニール、メタンフェタミン、コカインなどの違法薬物が血液中から検出された」という。フェンタニールは、オピオイド系鎮痛剤。近年、米国では毎日100人を超える人がこのフェンタニールの過剰摂取で死亡するほど社会問題になっている薬物だ。2016年に死亡した歌手のプリンスも死亡後に体内から高濃度のフェンタニールが検出され、死因は過剰摂取だったとわかっている。

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 メタンフェタミンは興奮作用をもたらす覚醒剤であり、これも米国では社会問題になっている。2017年の全米調査では、人口の5.4%(1470万人)が一度は使ったことがあると答えており、年間160万人が使用していると言われている。もう一つ検出されたコカインは言うまでもない精神刺激薬だ。こちらも米国では150万人(2014年調査)が使用していると指摘されている。

 つまり、フロイド氏はいくつもの強力な麻薬が血中に残っている状態だった。実際、偽札を使用したお店では「相当酔っ払ったような状態」だったという。