奥田氏は言う。「違法薬物は、各々の血中濃度が中毒域に達していなくても、併用することで薬理作用が増強し、身体に過度な負荷がかかることは広く知られています。解剖のレポートでは、死因を『心停止と法執行機関による逮捕時の拘束と頭頸部の圧迫の合併、心疾患と違法薬物の使用が関与』としています」
つまり、薬物摂取による過剰な興奮が死に影響している可能性があるという。
共和党支持者らの68%がBLMに反対している
実は、米国内では、「ブラック・ライブズ・マター」の抗議デモを冷めた目で見ている人も少なくない。そしてその理由には、フロイド氏が意図的だったか無自覚だったかはわからないものの、偽札を使った事実や、体内から違法薬物が検出されたといった解剖結果も影響していると指摘されている。
7月21日に発表された米世論調査では、「ブラック・ライブズ・マター」を支持する米国人は63%。政党ごとで見ると、黒人も多い民主党支持者らは92%が「ブラック・ライブズ・マター」を支持しているが、共和党支持者らの68%が反対の立場だ。意外にも、日本メディアではあまり伝わってこないが、反対している人も多いのが実態なのである。
繰り返しになるが、もちろんそれでも、「息ができない」と断末魔の叫びを上げる人を警察官が執拗に押さえつけて殺害したことは確かで、これは決して許されることではない。事実、フロイド氏を押さえつけていた米ミネアポリス市警の元警官は、殺人罪で起訴されている。
フロイド氏の死因究明と検証は不可欠だ
米国の死因究明では、「死因」以外にも「死因の種類」を決定しなければならない。病死、事故死、自殺、他殺、不詳のいずれかをはっきりさせなければならないということだ。「他殺」の中には、殺人だけでなく傷害致死も含まれる。
フロイド氏のケースでは、2人の解剖医とも、死因は他殺で一致した。ちなみにアメリカでは警察から独立した医学的専門性がある検視局が死因を決める一方で、日本では病院以外での死亡ケースの場合(2017年は16万5837件)、警察官が死因の種類を決めている。
フロイド氏のようなケースでは、死因が他殺か否かというのは、拘束時の警察官の過失を判断する重要な要素となる。解剖レポートは裁判にも使われるものなので、緻密で適切な分析が要求される。また、今後の警察の取り締まりの方法も左右するような重大なケースだけに、解剖による所見は非常に重要なものとなるのである。
フロイド氏の死は決して無駄にしてはならない。そのためにも、きちんとした死因究明と、それを受けた検証は不可欠なのだ。