米国の歴史的な事件となった、ジョージ・フロイド氏の死亡事件。ミネソタ州ミネアポリスで5月25日に事件が発生してから、早くも2カ月以上が経過した。
このケースでフロイド氏は、偽の20ドル札を使った容疑で、現場にて警察に拘束された。その際、白人警察官に後ろ手に縛られて、地面にうつ伏せで押さえつけられ、8分46秒も背部を圧迫されたことで窒息死した。
フロイド氏を死亡させたのが白人警官だったことと窒息死するフロイド氏の動画が拡散されたことで、事件後には全米各地で「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)」の抗議デモが発生。結果、ミネアポリスやワシントンDCなど各地で、警察が取り締まりの際に首を押さえつけることを禁止するなどの措置が取られることになった。
公開された“フロイド氏の解剖結果”
米国ではこうした事件が起きると、死因を追及する検視局(警察から独立した死因究明のための役所)が解剖などを実施して徹底的に死の原因を調べる。そして、その結果は誰でも見られるように公開される。事故や事件、不審死などで、人々がどう死亡したのかを、検視官や法医学者が徹底して専門的に調べることで、今後の予防に役立てるのである。死者の声を聞くことで生きている人たちが安全に暮らせるよう、きちんと調査を行っている(病死の場合は病院で調べられる)。
今回のフロイド氏のケースも例外ではない。すでにフロイド氏の解剖結果も米国では公開されている。そしてその結果を踏まえ、この事件を別の角度から考察してみたい。
まずはっきりさせておきたいが、この事件では警察官がその権力を行使し、一般市民であるフロイド氏を殺害するに至っている。公開されている動画でも特に危険な動きを見せていないフロイド氏が何人もの警察官に取り囲まれている様子がわかる。フロイド氏が、警察の過剰な行動による被害者であることは揺るぎない事実である。
法医学者はどう見るか?
一方で、その解剖結果を分析してみると、フロイド氏の事件について日本ではあまり報じられなかったアメリカ社会の現実が浮き彫りになってくる。
フロイド氏の解剖レポートは、日本大学医学部社会医学系法医学分野の奥田貴久教授に検証してもらった。奥田氏は米国メリーランド州検視局 (OCME)で法医病理学の教育を受けるなど国際派の法医学者である。