「文藝春秋」8月号の特選記事を公開します。(初公開:2020年7月17日)
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「国民の命を守るのは政治の第一の責務」とは、安倍晋三首相が繰り返してきたフレーズのひとつである。
だが、今回のコロナ対策では、失策が続き、それをカバーしようと言葉を尽くして説明を試みるも、国民を説得することはできず、言葉が空回りする場面が目立った。
この安倍首相の「言語能力」を厳しく批判するのはノンフィクション作家の柳田邦男氏だ。
何を話していたのか頭に残らない……
〈もともと安倍首相は、語彙が乏しいとか、決まり文句を繰り返すだけで核心をそらすことが多く、本当の心情がつたわってこないと、政治記者などから評されていた〉
「スラスラだけどツルツル」。国会答弁やインタビューは常に立て板に水。だけど後から思い返すと、「何を話していたんだっけ?」と頭に残らない……安倍首相の不思議な“言語能力”がコロナ対策でも発揮されてしまったというのだ。
その言葉に実体が伴わないのも問題だ。柳田氏が例として挙げるのは、安倍首相がPCR検査件数を「1日2万件に倍増します」と繰り返し公言したことだ。
〈国内の1日当たりのPCR検査数は、3月中は、ずっと数百件から2000件程度で、横這い状態になっていた。4月6日になって、安倍首相が「2万件にする」と言うので、期待して見ていたら、4月はやっと増えて3000件から最大9000件を超えた日もあったが、2万件にはほど遠く、1万件さえ超えなかった〉
〈政権のトップが「2万」「2万」と叫んでも、目標に近づけないということは、どこをどうすることによって何千件増やすことができるという確かな具体策を見出せないまま、ただ面子を立てるために号令をかけているだけとしか思えない〉