減少しないレイプの発生件数
だが、インド社会でレイプに対する関心が高まり、実行犯に死刑といった厳罰で臨むという姿勢を示しても、レイプの発生件数が減少するには至っていない。
インド内務省がまとめた犯罪統計によると、ニューデリーでのレイプ事件が発生した2012年のレイプ発生件数は2万4923件。2013年は、抗議行動などをきっかけに女性の意識が高まり、それまで「泣き寝入り」していた被害者が警察に届け出をするようになった背景もあり、件数は3万3707件にのぼった。2016年には3万8947件に達し、2017年は3万2559件とやや減少したが、2018年には3万3356件と増加している。毎日、90件以上のレイプ犯罪が起きている計算だ。
トイレのない地域は農村部などに多く、そのような地域はほとんどが親戚や顔見知りであるから、レイプが起きづらいのではないかと思う人もいるかもしれない。しかし、それは現実とはまったく正反対だ。犯罪統計では、2018年に起きた3万3356件のレイプのうち、3万1320件が「被害者の知人による犯行」と分類されている。実に94%が被害者と同じ集落に住む知人や友人、別れた夫といった顔見知りによって引き起こされていたのだ。2780件は家族によって被害を受けており、その深刻さを感じずにはいられない。
死刑執行でインドのレイプ犯罪は減るか
レイプ犯4人の死刑執行を間近に控えた2020年3月、ニューデリーに本部のある人権団体「アクションエイド・インディア」を訪れ、サンディープ・チャチュラ代表にインタビューをした。「死刑執行でインドのレイプ犯罪は減るか」との質問に、チャチュラ代表は「大きく変わることはないだろう」と答えた。
「インドには家父長的な考え方が今も根強く残っており、女性を無力な商品のように扱い、虐待することはなくなっていません。都市部でもそうした問題が今も起きているので、農村部に行けばなおさらのことでしょう。2012年のレイプ犯罪のあとも、大きく状況は変わっていないのです」
そう語るチャチュラ代表の思い詰めたような表情に、レイプというインドが抱える問題の深刻さが浮かび上がっているようだった。