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坂東玉三郎はコロッケびいき。荒川良々は行列に並んだ!

 ところで吉乃家は創業してからおよそ70年。その長い歴史についても少し伺おう。

「初代の方にはお子さんがいらっしゃらなかったので、主人の父が二代目として店を受け継いだんですよ。いまのお店になったのは、昭和43年のことかな。ここの前の道に走ってた都電がなくなって、道幅も広くしたんですね。そのときに今のビルに移ってきたんです。それで数年前に三代目の主人に代替わりして、そのまま今に至るってところですね。常連さんの中には30年来の方もいて、本当にみなさんに支えられてきたんだなって感じますね」

取材中、店の奥から「発掘」された昔の茶碗。「これに豚汁を入れてたって聞いたけど、これじゃ熱くなっちゃうわよね」

 70年間、ほんとうに長く愛され続けてきたお店なのだろう。壁にはこのお店にやってきた方々のサインが飾ってある。一番左上には坂東玉三郎。それにとんねるず、笑福亭鶴瓶、二代目三波伸介、蛭子能収。さらには内村航平、ムロツヨシや荒川良々の名前も。

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「坂東玉三郎さんはうちのコロッケが好きだったらしくて、差し入れに持っていったときにサインをくださったと聞いています。テレビ撮影で来てくださった方もいれば、プライベートでいらしてくださる方もいますよ。内村航平さんは東京体育館で大会があるから近くに泊まっていたそうで、夕方に後輩の方といらっしゃいましたね。荒川良々さんは、普通にお店に並んで食べに来てくださっていました。うちの息子が役者をやっていて、荒川さんみたいな役者になりたいんだって熱く語っていたから、荒川さんがいらしたときはすぐわかりました。ほかにも大杉漣さんとかいろんな方がいらしてくださったんですけど、なにせ忙しくて(笑)。サインはもらえる余裕がある時にだけもらってます」

「蛭子さんは仕事風でもなく、ふらっといらっしゃいました」

「再開はしようと思ってますよ」

 これだけ街に愛されている吉乃家だが、見たところ小森実志さんも美佐子さんもまだまだお若く、もともと人気の店。なぜ店を閉めてしまうのだろう。

「実はね、うちが入ってるこのビルごと売却されちゃったんですよ。新宿通りって皇居と新宿の都庁を繋いでる道だから、耐震基準がけっこう厳しいんです。だから古いビルはちゃんと耐震補強するか建て直すかの二択から選ばなきゃなんない。それで大家さんは売るって判断をしたんですよね。近くに店を移転しようとも思ったんですけど、いい条件の物件が全然見つからなくて……」

店前に掲げられた「閉店のお知らせ」

 長い歴史を持つお店が、お店自身でなくあくまで他人の事情でなくなってしまうのはあまりにも惜しい。再開についてはどう考えていらっしゃるのだろう。

「再開はしようと思ってますよ。ちょっと体を休ませながら、もう少し範囲を広げて物件を探そうかなって。お客さんも再開したら連絡くださいって、みなさん名刺置いていってくださるんですよ。わたし、今まで名刺を入れておくものなんて持ってなかったんだけど、急遽作りました(笑)。最後の日ですか? みんなでここで写真撮って終わろうねって話をしてますよ」

 再開する気持ちはあると聞けて一安心。最初から最後まで明るくテキパキと応対してくださった美佐子さん、本当にお忙しい中お話ししてくださってありがとうございました。再開を待ってます!

吉乃屋のマッチ 「再開を待ってるブー」