いま東京で、いや日本で一番人気のあるとんかつ屋といっても過言でないだろう。「成蔵」は高田馬場駅から南へ向かって少し歩いたところにある。入り口は小さく、地下へ向かう階段なので、営業時間外であれば見逃してしまいそうだ。しかし実際に見落とすことはないだろう。なぜなら、そのあたりでは他に見ないほどの行列が常に入り口から伸びているからだ。
その行列の絶えることない人気店、そして「とんかつニューウェーブ」の中心にいる成蔵で、店長の三谷成藏さんにお話を伺いながらとんかつをいただいてきた。
意識したのは「女性客がひとりでも気楽に来れる店」にすること
ところで店に入ってまず目を引くのが、とてもとんかつ屋とは思えない内装だ。
「このお店を作るときに一番意識したのは、女性のお客さんがひとりでも気楽に来れる店にしよう、ということでした。内装が普通のとんかつ屋らしくない、特徴的だ、とよく言われますが、これも女性へのアプローチを考えてのことです。うちの店は入り口も小さいし地下にあるものですから、普通に考えればちょっと入りづらい。敷居はできるだけ低くしたかったんです」
バーカウンターのような高いカウンターとスツール、控えめの照明、壁も白を基調とし、とんかつが出てくるお皿はひし形だ。この新しくておしゃれな感じの源は女性客にどうアプローチするか、というところからきていたのだ。しかしまた、どうして女性客に着目したのだろうか。
「以前は飲食とは全く別の業種で働いていたのですが、いつかは店を持ってお客さんに自分の料理を出したいという夢がありました。そこで自分の店を持つ前は、新橋の『燕楽』という有名なとんかつ屋で修業をしていました」と三谷さん。新橋の燕楽というと、池上の燕楽を筆頭に暖簾分けされた店も多い名店だ。新橋という場所柄、昼ごはんどきにはサラリーマンでいつも賑わっている。
「でも、昼間の男性サラリーマンの方だけをメインターゲットにする必要はないですよね。女性だってもっととんかつを食べたいだろうと思っていましたし、そうであれば雰囲気を女性の方に向けてみれば良いんじゃないかと考えていました。それに、燕楽を真似するだけじゃダメですしね」