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とんかつニューウェーブ代表格 高田馬場「成蔵」が“夜”にこだわる理由

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とんかつ=昼ごはん、のイメージを崩す試み

 また昼ごはんどきのサラリーマンが主なお客さんであるために、とんかつ屋はかつて昼の営業をメインで考えているお店が多かった。しかし成蔵あるいは「ニューウェーブ」以降にはそれは当てはまらない気もする。実際に成蔵は夜の時間帯でも行列ができているのだ。

「店を構えてから数年間は、夜に串揚げもやっていました。燕楽を見ていたので、夜にもお客さんが来てくれるような工夫も必要だろうと考えていたのです。しかし最初は、ほんとうにお客さんが来なかったですね(笑)。始めてすぐのときはそれこそ昼に2組くらいだけ、というときもありました。ただ3年目くらいからお客さんが来てくださるようになるにつれ、串揚げを仕込む時間がなくなってしまいました。それで今は、夜も定食だけですね」

 

 ただしとんかつも日々変わり続けており、特に特ロースはどんどん厚くなってきていて今ではなんと250g。ものすごい量だけれど、女性のお客さんもけっこう頼まれるそう。

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110℃で揚げ始めて145℃でフィニッシュ

 成蔵のとんかつは110℃で揚げ始めて145℃でフィニッシュというかなりの低温揚げで、そこから余熱でしばらく火を入れる形だ。また糖分の非常に少ないパン粉を使っていることもあって、この衣の圧倒的な白さと、口の中で溶けるような柔らかさを成立させている。肉自体は脂身の甘みが非常に強く、見た目もうっすら桃色で美しい。口当たり良く肉を邪魔せずにスッと消えてゆく衣に、肉汁を滴らせる甘くピンク色の豚肉の調和。なるほど、味も見た目も女性にやさしいとんかつなのかもしれない。

 しかしだからといって、一般的にイメージされるようなガッツリ系ご飯としてのとんかつを求めているお客さんを見ていないわけではない。ご飯も一杯まではおかわり無料、それにいくらやわらかい口当たりといっても、脂身が強い肉で250gもあればガッツリ系と言っても不足はない。とんかつにご飯、味噌汁、キャベツ、漬物というセットも、昔からのとんかつ屋と同じだ。あくまでとんかつ屋でありつつ、女性にも来てもらいやすいように、という工夫をしているだけなのだ。