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核ミサイル発射のシステムはなぜ複雑なのか……「管理しやすい単純さ」を目指す“効率至上主義”の危うさ

『新装版 思考の技術』(中公新書ラクレ)

2020/08/24
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人工システムでは、まだまだフィードバックが不足しすぎている

 フィードバックとは、アウトプットの一部をインプットに戻してやって、インプットの調節をはかることである。

 食物連鎖も、150万種の生物が共存するためのフィードバック機構が累積したものとみなすことができる。ある生物が多くなる。すると食物が足りなくなるので、餓死者が出る。それによって、数が元に戻る。

 そのように、自然界では、ミクロのレベルからマクロのレベルにいたるまで、あらゆるシステムがフィードバック機構によって自動調節されている。

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©iStock.com

 これがあるから、自然は安定している。ところが、人工システムでは、まだまだフィードバックが不足しすぎている。

 工場内のシステムで用いられている技術を利用すれば、河川の汚染が限度以上になれば、自動的に廃水の放出をストップさせるとか、大気中の亜硫酸ガス濃度がある程度以上になれば、工場のボイラーの火が消えるとかいう装置は簡単に作れるはずである。

 働きすぎた人間は自動的に休息させられ、儲けすぎた人間は自動的に浪費せざるをえなくなるというようなフィードバック装置があってもいいような気がする。

核ミサイル発射のシステムはなぜ複雑なのか……「管理しやすい単純さ」を目指す“効率至上主義”の危うさ

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