中島真志さんが『アフター・ビットコイン』を上梓したのは、2017年10月のこと。当時ブームだったビットコインと、その根幹技術であるブロックチェーン(分散型台帳技術)の将来性を解き明かして、5万部を超えるベストセラーとなった。
「前作の『アフター・ビットコイン』では、仮想通貨は、必ずしも夢の通貨ではないことを指摘しました。その年の初めには1ビットコイン(BTC)10万円だった価格は、出版の2カ月後には100万円から200万円超に急騰しました。しかし直後に価格は一気に暴落。バブルは弾けました」
それから3年、中島さんはその続編として『仮想通貨vs.中央銀行』を刊行した。昨夏のフェイスブック肝いりのデジタル通貨「Libra(リブラ)」構想の発表をかわきりに、私たちの身の回りに姿を現しつつあるデジタル通貨について、その現在と未来を本書で丁寧に解説している。
そのなかで、ビットコイン・バブルの舞台裏も明らかにしている。
「当初からあやしいと思われていたのですが、米テキサス大学の先生が、すべての取引記録を調べて、ビットコインの価格急上昇には、人為的な相場操縦があったことを学術論文で明らかにしました。
結局、ビットコインなどの仮想通貨は、投機の対象となって価格が乱高下してしまい、取引用の通貨として使われていません。そうした弱点を抑えるため、米ドルなどに連動するように価格を安定させる“ステーブルコイン”が出てきました。しかし、支払手段としては安定性がいまひとつでした。
そこで銀行や民間機関、中央銀行が発行し、価格を安定させるしっかりとした裏付け資産をもち、取引の支払い手段としてより信頼できる“デジタル通貨”へと注目が移っています」
先日、日本銀行も専門部署を作り、「デジタル円」の発行に向けて本格的に取り組みはじめた。中国では、来年にも「デジタル人民元」が誕生する予定だ。
「中国は6年前に研究チームを立ち上げ、デジタル通貨に関する特許も80件以上申請してきました。またスウェーデンでは、すでに国民の生活にキャッシュレス決済が浸透して〈現金お断り〉の店もでてきたため、国民の現金離れに危機感を抱いた中央銀行がデジタル通貨の対応を急いでいます。現金の通貨は運送費もバカにならないので、島嶼の多い小国などでも研究が進んでいます」
もともと日本銀行に勤めていた中島さんは、在職中から「決済システム」の研究を始め、大学教授への転身後も続けていた。
「日本銀行の金融研究所にいた90年代、電子的な現金の仕組みについても研究していました。その後ビットコインが出てきて、世界中にお金を送れる仕組みと聞いて、それは決済システムではないか、私の守備範囲だと思って、調べだしたのがきっかけです。
原始時代の貝や石といった自然貨幣から、穀物や布といった商品貨幣、金や銀などの貴重な金属の重さを計量して使う金属貨幣、それを硬貨のように一定のサイズに定型化した鋳造貨幣、さらに紙に金額を印刷した紙幣と、お金にはその当時の最先端の技術が使われてきました。IT化の進んだ世界では、お金が紙幣や硬貨などリアルなものからデジタル通貨へと進化するのは必然の流れでしょう。10世紀の北宋の時代に交子という紙幣が生まれてから千年。私たちは歴史上の大きな転換点にいるのではないでしょうか」
なかじままさし/1958年生まれ。一橋大学卒業後、日本銀行入行。金融研究所、国際決済銀行(BIS)などを経て、現在、麗澤大学経済学部教授。早稲田大学講師。著書に『アフター・ビットコイン』『決済システムのすべて』(共著)など。