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上智大が性別枠なしのコンテスト新設、「島宇宙化」…ミスコンのゆくえに社会学者が注目する理由

『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど』著者・高橋幸氏インタビュー #2

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ーーその理由は? 

高橋 第二波フェミニズムの頃は、コミュニティ内の「女らしさの序列」を決定づけるような強い力がミスコンにあった一方で、今のミスコンは島宇宙化しているんですよね。「ミスコンに出たいタイプの女性たちが出ているだけ」になっていて、ミスコンで選ばれないことが「女としての価値が低い」ということを意味しなくなっている。   

 それに、出ている本人たちも自己実現の手段や「エンパワーメント」と捉えている。そこを一概に否定できないんじゃないかと思うんです。ミスコンをめぐるこういった変化を丁寧に捉えることで、「女らしさ」がどう変化してきているのかが見えるのではないか、というのが狙いです。  

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性別枠を廃止した上智大学のミスコンの是非

ーー最近では、上智大学がミスコンを廃止し、出場者を性別問わず募集する「ソフィアンズコンテスト2020」を開催する、というニュースが話題になりました。 

高橋「ソフィアはこの方向に舵を切ったか、おもしろいな」というのが率直な感想ですね。米国ではまったく別の方向にミスコンが盛り上がっているんです。 

ーーどういった方向なのでしょう。 

高橋 アメリカではミスとミスターを一緒にすることはまずあり得ません。むしろ、アフリカ系女性だけが出られるミスコン、ふくよかな女性だけが出られるミスコン、トランス女性だけが出られるミスコン……とカテゴリー別のコンテストを膨大に開催し「多様な美の基準」を可視化する、ということをやっています。

 

 そういう意味で、カテゴリーをすべて統一してしまう「ソフィアンズコンテスト」は真逆の発想です。 

ーーそれは功を奏すのでしょうか、それとも新たな問題を引き起こすのでしょうか。  

高橋 どちらの可能性もあると思いますよ。ポジティブな可能性としては、性別というカテゴリー内での審査をやめたことで、既存の「女らしさ」「男らしさ」ではない、新しい魅力の基準を打ち立てられるかもしれません。 

 懸念点は、LGBTQの参加を歓迎してミスコン的イベントの場に引っ張り出すのは、今すでに世の中に蔓延しているLGBTQへの「ショービズ的まなざし」を強化する側面があるということ。 

 また、従来から深刻な問題になっている女性出場者へのSNSでの性的嫌がらせやバッシングに対しては、運営側がきちんと対応策を取るべきです。しかし、性別枠を撤廃したことで「男」とか「女」とかにまつわる問題はなくなったという空気が広がり、対応策がおろそかになるのではないかということを懸念しています。「男とか女とか関係ない」というのはまさにポストフェミニズム的な感覚ですよね。