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虫になることで見えてくる生命のサバイブ法とは?──川村元気×養老孟司『理系。』対談

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文系は理系に騙されている?

川村 でも、多くの人は文系的に物事を考えていて、だからこそ理系サイドから「科学的な実証データがあるから正しい」と言われると、すぐ信じてしまう。そのデータを誰も検証していないにもかかわらず、です。

養老 データの検証という点では、1996年にイギリスの研究所が世界で初めてのクローン羊「ドリー」を作りましたけど、あれは1000回目でやっと成功したんです。でも、999回はなぜだめだったのかは、一切証明しないんですよ。生物科学というのは昔から特殊領域で、「成功さえすればいい」みたいなところがある。株で儲かったとかに近い話でもあって、科学じゃないんです。

©iStock.com

川村 だとしたら、何を信じたらいいんですか?

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養老 だから、何を信じられるかってことは、自分で見つけるしかないんですよ。最初の話に戻りますけど、僕の場合はそれが解剖であり、昆虫採集なんです。無意識にやっているんだけど、なんで居心地がいいのかを自分で理解する。それが主体性とか自分らしさとかいうレベルじゃなくて、本当に己を発見するってことですよ。

川村 きっと理屈だけで考えちゃいけないんでしょうね。

養老 虫を相手にしていても、こうだと決めたところで、必ず同じ仲間で違う虫、新種が出てくる。自分が持っている既成概念が必ず崩壊するのが、実に心地いいんです。思い通りにならないってことを学ぶと、人生、ラクですよ。みんな、なんでも思い通りになると勘違いしているから、イライラするわけでしょ。

(この対談の続きは『理系。』に掲載)

養老孟司(ようろう・たけし)

解剖学者・作家・昆虫研究家。1937年神奈川県生まれ。62年東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。95年同大学教授を退官し、現在、東京大学名誉教授。著書に『唯脳論』(ちくま学芸文庫)、400万部を突破した『バカの壁』『死の壁』(いずれも新潮新書)、『身体巡礼』(新潮社)など。ほか専門の解剖学、科学哲学から社会時評まで多数。

川村元気(かわむら・げんき)
1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、映画プロデューサーとして『電車男』『告白』『悪人』『おおかみこどもの雨と雪』『君の名は。』『天気の子』などの映画を製作。2010年、優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年に初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同作は全世界累計200万部突破のベストセラーになった。他著に小説『億男』『四月になれば彼女は』『百花』など。『理系。』の姉妹本にあたる『仕事。』は、宮崎駿、山田洋次、坂本龍一ら12人の巨匠と「人生を面白くする働き方」について語り、8万部突破のベストセラーとなっている。

理系。 (文春文庫)

川村 元気

文藝春秋

2020年9月2日 発売

虫になることで見えてくる生命のサバイブ法とは?──川村元気×養老孟司『理系。』対談

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