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2020/10/06

 しかし、この人はただ右脳と左脳が別のものを見たにすぎないわけです。それなのに、咄嗟に整合性をとろうとして、新しい筋書きの物語を作ってしまうのです。動物にも自らの失敗を隠そうとするなどの行動が見られるそうですが、このように高度な虚構を構築するのは人間だけです。

 私たち人間は、いわばこの能力で生き延びてきたといっても過言ではありません。黒を灰色かもしれないと言ってみたり、矛盾を見聞きしても見なかったことにしたりするなどして何とかやり繰りしてきたのです。

 もしウソを吐くということが人間にとって本当に「良くないこと」であったのなら、この能力はとっくに退化して消失していたことでしょう。つまり、私たちはむしろ「ウソを必要とする生物種」なのです。虚構を作る能力はとても大事な生存戦略の一部なのです。

 紙切れを信用の印として使用するお金も、いってみれば虚構の上に構築されたのです。ファッションもメイクもネイルもまつげエクステも、元々の姿を覆い隠すものである以上、広い意味ではウソを吐く行為といえるでしょう。

©iStock.com

 あなたは病気とはいえないと思います。ただ、多くの人を楽しませる虚構を作る能力に常人ではとても手の届かない非凡なものを持っているのに、なぜその力を活かせない公務員という職に就いてしまったのか……。甚だ疑問です。どうしてその適性を活かそうと思わなかったのでしょうか。作家や脚本家になっていたなら、爆発的なヒットが狙えたかもしれないのに。

 今からでも遅くはないので、二足のわらじが可能なら、創作活動をなさることをお勧めしたいです。いつの時代もノンフィクションよりフィクションに人間は惹かれ、興奮するものです。あなたの素晴らしい虚構がいつか作品となり、大ヒットする日を楽しみにしています。

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text:Atsuko Komine

週刊文春WOMAN vol.7 (2020秋号)

 

文藝春秋

2020年9月24日 発売

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