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西口文也が語った、3度のノーノー未遂が「全然悔しくない」理由

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/09/18
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3度の未遂で得たもの

 2回目の未遂はそれから3年後。2005年5月13日、インボイスSEIBUドーム(当時)の巨人戦。9回2死まで無安打に抑え、デッドボール1個のみで6対0で勝っていました。大記録まであと一人に迫り、今度は清水隆行さんにライトにホームランを打たれます。

 印象的だったのが、その直後の表情です。バラエティ番組では「見事なあんぐり顔」として紹介されました。このときは、悔しかったのでしょうか?

「悔しかった。なぜなら、完封できなかったから」

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 ノーヒットノーランを逃したからじゃなくて?

「だから、狙ってないって言ってるじゃん。悔しいよ、あれはただの勝ちだもん。完投は誰でもできるじゃん? 完封ってなかなかできないから、狙いたい。それがなくなって、あそこはもう完封できない。だからあと一人を抑えて、早くおうちに帰ろうということだけを考えて投げました」

 あんぐりとした顔には、そんな思いが込められていたんです。 

 そして3回目の未遂は、同じ2005年の8月27日、インボイスSEIBUドームでの楽天戦。0対0のまま9回を無安打で投げ切りました。

「9回で球数が110球くらいだったから、まだ行ける。その代わり、次のイニングが最後だと思ってマウンドに上がりました。再三言うようにノーヒットノーランは一度たりとも狙っていなくて、とにかく完封勝利したい。10回を投げ切って、裏の攻撃で誰かが点をとってくれれば俺の完封勝利が手に入る。それだけを目指してマウンドに上がりました」

 結果、10回の表、先頭の沖原佳典さんにライト前ヒットを打たれました。球足が速く、セカンドの高木浩之さんの横を低い弾道で抜けていきました。またしてもノーヒットノーランを逃し、直後にフォアボールを与えましたが、10回を137球の熱投で無失点。裏の攻撃で石井義人さんがサヨナラツーベースを打ち、1対0で完封勝利を飾りました。

「3つの中で言うと、これが一番うれしかった」

 西口さんはそう振り返りました。10回を一人で投げ切り、何よりこだわる完封勝利を飾ったのがうれしかったというのです。

 でも、3度目のノーヒットノーランも未遂に。9回を無安打に抑えたにもかかわらず、です。ノーヒットノーランをやっていれば……とは思わないのでしょうか?

「思わない。やっていたら、何か人生変わったかもしれない。でも、3回目でノーヒットノーランが成立しちゃったら、10年以上経ったいま、堀口くんがこうして取材に来てくれることはたぶんなかったと思う。成立しなかったというのが、僕らしくてよかったんじゃない? だからこうやって、ちょくちょくメディアにも取り上げてもらえるし、僕の名前もちょくちょく出る。それでよかったんじゃない?」

 ブレない男、西口文也。ある意味カッコいいというか、それだけ言い張れるのはすごいなと思いました。

西口文也 ©文藝春秋

髙橋光成に託される伝説の続き

 おそらく本心から、西口さんは悔しくないのでしょう。そんな心情が改めて思い出されたのは、2015年9月28日、ロッテ戦後の引退セレモニーです。普通、引退セレモニーでは感動的な話をして、監督やコーチ、家族にお礼をいって、涙涙の大拍手で終わるじゃないですか。ところが西口さんは、それだけでは終わりませんでした。

「ノーヒットノーラン未遂2回、完全試合未遂1回、そして今日フォアボール……」

 そう言って、ファンの爆笑を誘ったんです。

 引退試合で打者一人に登板し、フォアボールというオチ。しかもセレモニーでは、自分のノーヒットノーラン未遂を笑いのフリにするんですよ。

 笑いをやっている人間からしたら、「やられた。それ以上の笑いをできねえよ!」って感じました。だって、ノーヒットノーラン未遂を笑いにできる人なんていないじゃないですか。

 現役引退から4年後の去年、取材を申し込んだ際、「西口さんにとって不名誉な記録かもしれないですけど」とお願いしました。でも話を進めていくうちにわかったのですが、本人は悔しくないんですよね。なぜなら、狙ってないから。だから今でも答えられるし、笑いのネタにもできるんですよ。

 改めて思うのは、西口文也という男のデカさです。引退試合でグラブを譲り受けた髙橋光成には、すべて受け継いでほしい。9月8日のオリックス戦の1週間前、ロッテ戦では7回1死までノーヒットノーランを継続しましたが、今度こそ達成してもらい、「僕が13番の伝説を完結させました」と笑顔で言ってほしい。

 ライオンズの背番号13ファンとして、髙橋光成にノーヒットノーラン達成を託したいと思っています。

構成/中島大輔

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