今回が「デビュー戦」になるスポーツライターの大利実です。お手柔らかによろしくお願いします。

 普段は、中学軟式野球や高校野球を中心に取材をしていて、目にしてきた選手がプロで活躍する姿を見ると、「あんなに小さかった子が……」と、近所のおじさんのような気持ちを抱くことも。

 子どもの頃から「青」が好きで、野球を見始めたときに強かったのが、青いユニフォームのライオンズ。ファンクラブにも入っていたことがあり、大人になっても一番気になる球団であることに変わりはない。

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 現在5位。今年も、先発陣がなかなか結果を残せない……なんてことを思っていたら、『文春野球』の中島大輔監督からメッセージが届いた。

「西武ファンの多くが、松本航にモヤモヤしています。どうして、大学時代のピッチングをできないのか、書いてもらえませんか?」

 モヤモヤしているのは、私も同じ。松本のピッチングを見るたびに、「こんなもんじゃない!」という気持ちになる。中学3年生のときにピッチングを見ていたこともあって、思い入れもある。

 日体大では、上から目線で自信たっぷりに腕を振り、150キロ前後のストレート、鋭く沈むツーシーム、スライダーのコンビネーションで通算30勝。日米大学野球では、7回16奪三振の快投を見せるなど、「ドラフト1位」にふさわしいピッチャーだった。

中学時代の松本航 ©大利実

恩師・辻孟彦コーチを直撃!

 一体、松本に何が起きているのか?

「この人に話を聞きたい」と、すぐに浮かんだのが、日体大の辻孟彦投手コーチだった。

 日体大で22勝を挙げ、2011年のドラフトで中日ドラゴンズから4巡目指名を受け、プロへ。3年で引退したあと、2015年4月1日から母校のコーチに就き、松本、東妻勇輔(ロッテ)、吉田大喜(ヤクルト)、社会人経由で大貫晋一(DeNA)をプロに送り出している。

左から松本、東妻勇輔(ロッテ)、辻コーチ ©辻孟彦

 近年、アマチュア野球界では「日体大はピッチャーが育つ」と言われているが、その大きな要因が辻コーチの存在である。

 取材をお願いするときに初めて知ったが、プロ入り後、「技術的な話は、松本とほとんどしていない」とのこと。プロにはプロの考えがあり、球団には投手コーチもいる。自分が出しゃばってはいけない。それでも……気になるところはいくつかあるようで、「ぼくの言葉が松本に届けば嬉しいです」。

 取材日は8月10日。2日前の日本ハム戦で、5回2失点とゲームを作ったあと、“過去”と“今”と“これから”の松本を語ってくれた。

©大利実

真っすぐのキレは昌さんに負けていない

 辻コーチは、松本の入学と同時にコーチに就任。4年間の成長過程は誰よりも知っている。プロ引退後、日体大の大学院にも通っていたが、修士論文のテーマは『大学一流投手における球速を高めるための条件についての一考察』。研究対象は松本だった。

「キャッチボールでもブルペンでも球を受けて、試合で投げた映像はオープン戦であっても、必ずビデオでチェックしていました。本人以外で、松本の球を一番見ています。あいつのストレートは、本当にすごいんですよ。球を受けていて、距離が近く感じる。失速しないで、そのまま向かってくる。しかも、ボールが見づらい。一番の良さは、リラックスした状態でバッター方向にスーッと体重移動して、左肩を支点にして、鋭くクルッと回れること。この体の使い方がうまいので、バッターからしてみると、ボールが急に来るように見えるんです。中日時代に、山本昌さん、山井大介さん、浅尾拓也さんら、一流のピッチャーとキャッチボールをさせていただきましたが、ストレートのキレは負けていません」

 実際に、球を受けていた辻コーチだけに説得力がある。大学時代の力をそのまま発揮できれば、「1年目から二桁勝てる」と思っていたという。