「芝居をさせることもある」ドラフト獲得秘話
コロナ禍でスカウト活動は一時休止した。
「4、5、6月は全員が自宅待機でした。冬を越えて成長した姿を視察できないのは痛かったです。今年は例年以上に各担当スカウトの情報が大切になるでしょう」
選手の状態はもちろん、他球団の動きも重要な情報。米村チーフは「たまに芝居させることもありますよ」と笑う。
2018年夏、鳴尾浜球場で阪神と社会人チームの交流戦でプロ注目右腕が先発した。しかし、2回途中で肩を不自然に回し始め、緊急降板。密着していた清水昭信スカウトはすぐに米村チーフへ電話した。「今、肩をやりました」と小声の清水スカウト。しかし、米村チーフは「もっと大きい声で言え。周りに聞こえるように」と指示した。清水スカウトの怪我報告が周囲のスカウトの耳に届く。
「あの怪我で他球団はスッと引きました。その後、清水には徹底的に会社に通わせて、治り具合とスカウトの出入りを調査させました。すると、肩は軽症、3位で採れると分かったんです」
勝野昌慶の獲得秘話だ。ドラフト指名後、勝野は全日本選手権で三菱重工名古屋を優勝に導き、MVP。
「大島(洋平)も上位候補でしたが、ドラフトの年にセンターライナーをスライディングキャッチして、右手首を骨折し、ボルトを入れる手術をしたんです。当時はボルトを抜く手術も必要という常識だったので、プロ入り後も時間がかかると、他球団は撤退しました。しかし、日本生命のマネージャーとは福留(孝介)の時から情報交換を頻繁にしていたので、ボルトを抜かなくて済むということを知り、1年目から出られて、5位で行けると判断したんです。今もボルトは埋まっていますよ」
近年の採用とチームの現状をどう見ているのか。
「まずはピッチャーの若返りを図りました。柳(裕也)に梅津(晃大)、清水(達也)に山本(拓実)。岡野(祐一郎)と橋本(侑樹)も一軍を経験しましたし、左も小笠原(慎之介)や笠原(祥太郎)がいる。課題は野手。一軍は30歳以上が多く、この先もレギュラーなのは高橋(周平)くらい。京田(陽太)も2割3分ではね。だから、根尾(昂)、石川(昂弥)、高松(渡)、岡林(勇希)、石橋(康太)あたりが『先輩、お疲れ様でした』と、みんなを代打や代走に追いやらないと」
7年連続Bクラスの中日だが、二軍は10連勝するなど希望の光が見えている。未来の戦力が決まるドラフト会議。すでに私は10月中旬に滝行、当日の社内待機が決まっている。今年はどんなドラマが待っているのだろうか。
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