7月3日、巨人・中日1回戦。大野雄大と菅野智之の投手戦は1対0と巨人リードの7回裏、まさかの展開を見せた。2死2塁で石川慎吾が打ち上げたフライをダヤン・ビシエドが落球。痛恨の2点目が入った。ベンチに帰ると、ビシエドは左腕に頭を下げた。実直な男は敗戦の責任を背負い込んだ。

 しかし、すぐにやり返す。7月10日、中日・広島4回戦。延長10回裏、ビシエドはサヨナラ弾を打ち、仲間と喜びを分かち合った。7月31日、中日・ヤクルト7回戦。2安打3打点のビシエドは完投勝利の大野雄とお立ち台へ。この日は仲間を救った。

 彼ほど日本に馴染み、チームメイトに愛されている外国人選手がいるだろうか。キューバ出身。来日5年目。1年目のキャンプ終了後からアナイス夫人、長男ジュニア、長女ダイアナ、次男ブライアンと名古屋市内で同居。愛犬の黒柴の名前は「富士」。すっかり日本に慣れ親しんでいる。

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来日5年目のビシエド ©時事通信社

ビシエドが日本球界で成功できた要因

 中日がビシエドと契約したのは2015年オフ。当時の監督だった谷繁元信氏が振り返る。

「ビデオを見て、即決しました。スイングが速い。タイミングを取る動きが大きくない。この2点が決め手でした。日本の投手は変化球を低めに集めてくる。タイミングの取り方が大きい外国人はどうしても苦労するんです」

 見立ては間違いなかった。2016年は新外国人選手史上初の開幕3試合連続本塁打を放つなど華々しいスタートを切った。

「性格は真面目。でも、真面目過ぎて苦しむこともありました」と谷繁氏。研究され始めると、バットは湿りがちに。深く悩む姿もあった。「ただ、彼は聞く耳を持っていました。それが成績を残している要因だと思います」と指摘する。

 日本で成功するため、ビシエドは素直に教えを請うた。結果、2018年は首位打者と最多安打のタイトルを獲得。2019年は全143試合に出場するなど日本球界にアジャスト。その打撃を川上憲伸氏が投手目線で解説した。

「一番は内角のさばき方が変わりました。もともと突っ込んで打つタイプで、内角球に対して頭と肘が一緒に出て行って、衝突する感じが多かったんです。ピッチャーからすると、きっちり内角に投げておけば、大丈夫かなと。でも、去年の中盤くらいから少し体を残して、ミートポイントとの間に距離ができるようになりました。だから、詰まっているようで意外と打球が伸びる。イメージで言うと、和田(一浩)さん。詰まっても飛ぶし、泳いでも飛ぶ。打ち取りにくいバッターになりましたね」