ドラフト会議まで約1か月。球団の許可を得て、中日の注目選手や新型コロナウイルスのスカウト活動への影響などを都市対抗野球東海予選が行われた岡崎市民球場で米村明チーフスカウトに聞いた。会うなり、白髪の紳士は笑顔でこう話しかけてきた。
「滝、今年もお願いしますよ」
私がドラフト前に滝行をし、当日に取材へ行かず、社内待機すると、なぜかくじが当たるという話はすっかり中日スカウト陣にも知れ渡っている。
「今年は大野(雄大)のFAがドラフトに関係するのかとよく聞かれますが、そこは全く。良い選手を素直に評価する。この方針はブレません。ただ、正直、10月13日のスカウト会議まではっきりとしたことが言えません。今年はプロ志望届次第で大きく戦略が変わるんです」
ある逸材の決断が鍵を握っている。
「中京大中京の高橋(宏斗)です。ピッチャーとしての能力が尋常じゃない。甲子園の交流試合でも9回の139球目に153キロ。名古屋から東京まで車で走るとしましょう。軽自動車ではしんどいですが、4000ccの車では何ともない。つまり、モノが違う。タイプはマー君(田中将大)。チームを勝たせる投球ができる。競合は当然。何球団かは考えたくもありません」
しかし、高橋は大学進学を視野に入れている。志望届の締め切りは10月12日だ。
米村チーフが注目する「第二の宇野勝」とは?
「大学生では早稲田の早川(隆久)。魅力はスピード。先日、社会人とのオープン戦でも4回まで打者12人に10奪三振ですよ。ただ、裏の顔がありましてね。5回に下位打線につかまり、あっさり失点。もったいないピッチングをするんです。力がありながら、六大学で9勝止まり。意識か、考え方か。課題はそこです」
米村チーフが惚れ込む投手が九州にいる。
「ブルペンの後ろから見た時、キャッチャーが低めに構えたんですが、球が高めに浮いてきましてね。その時、避けちゃったんです。ネットがあるのに。久しぶりでした。金光大阪時代の吉見(一起)以来ですね。我々は平均球速を評価しますが、常時147、8は投げる。言い過ぎかもしれませんが、江川(卓)さんに近い。球種もストレートとカーブだけ。甲子園の合同練習会も見ましたが、立ち姿も美しい」
彼の名は山下舜平大。福岡大大濠の大黒柱だ。米村チーフが注目する高校生投手は他にもいる。
「明石商業の中森(俊介)。2年までは相手がストレートを待っていても、あえてストレートを投げ込むタイプでしたが、3年になって変わってきたんです。打つ気がない時はストライクを簡単に取って、勝負所はギアを入れる。チームを勝たせる投球術を身に着けました。桑田(真澄)と重なりますね」
野手も多士済々だ。
「横浜の度会(隆輝)。ヤクルトの度会(博文)の息子ですよ。もう簡単にヒットを打つ。将来、首位打者になれる素材ですが、脇腹や足首の怪我があったので、体のケアは必要でしょう。明石商業の来田(涼斗)と星稜の内山(壮馬)。ところが、2人とも柳田(悠岐)のように軸足に体重を残して、かち上げるスイングになりました。でも、あれは柳田のスイングスピードだからできること。高校生は打てますが、プロは難しい。実際、真っ直ぐをファウルする姿も目立ちます」
近江の土田龍空も評価が高い。
「まさに野生児。第一印象はチャランポラン。でも、グラブさばきやバットコントロールには天性の柔らかさがあります。うーやん(宇野勝)ですよ。結局、守備は宇野が一番うまかった。土田は守れて、打てるショートになれると思います」