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文化放送・山田アナのデビュー戦。ファイターズ・渡邉諒の“神の左手”をどう表現したか

文春野球コラム ペナントレース2020

 敵地メットライフドームで行われた西武戦18回戦である。ラジオ中継のファンとしては大変注目すべき出来事があった。文化放送ライオンズナイターで新人、山田弥希寿(みきとし)アナがデビューしたのだ。僕は(日ハムファンなのに)どういうわけか文化放送と縁が深くて、20代の頃、人気午後ワイド『吉田照美のやる気MANMAN!』でレギュラーコーナーを持たせてもらって以来、もう30年以上、出演を続けている。当然、山田弥希寿アナのデビュー戦の話は小耳にはさんでいて、おお、ハム戦にぶつけてきたかー、と楽しみにしていた。

 山田さんは広島県出身の27歳、元山陰放送のアナウンサーだ。高校時代、「野球実況を仕事にしたい」と夢を抱き、それからちょうど10年たって、メットライフドームの実況席に座った。山陰放送で高校野球の実況は経験したろうが、この日はプロ野球公式戦だ。隣りに解説者の「おとやん」こと松沼雅之さんがいる。山田さんは夢を叶えたのだ。試合はパの下位対決かもしれないが、山田さんにとっては一生忘れられない夢舞台だ。

 僕は選手に関しても頑張ってるワカゾーが好きなんだけど、実況アナでもライターでも、それから野球ファンでも新しく入ってくる人が大好きだ。長年見ている僕には気がつけないところを見ている。勉強になるというと物言いが大袈裟か、接していて楽しいのだ。新人のデビュー戦なんて聴き逃すはずがない。僕はテレビのフジテレビTWO中継をミュートにして、ラジオの文化放送をつけた。おお、山田弥希寿アナだ。昨夜の「西武ライオンズ通算3000勝」の録音を受けて、試合前の気分を高揚させている。何か聴いてるこっちまで緊張してきた。

山田弥希寿アナは高校時代の夢を叶えたのだった。そりゃ緊張しますよねー

デビュー戦で実況アナの腕が問われる展開に

 1回の表、ビジターチームのファイターズが先攻だ。マウンド上には西武の先発、背番号36番、伊藤翔。3連戦の第3戦、この日勝ったほうが勝ち越しとなる。それでは実況マイクを文化放送・山田弥希寿アナにお渡ししましょう。

「メットライフドームです。西武対日本ハムの18回戦、埼玉所沢からお送りしていきます。今日、所沢の日の入りは5時36分、すっかり上空は日が暮れております。そのメットライフドームのマウンド上にはサウスポーです、今、投球練習を行っている3年目の伊藤翔です。今シーズンは3度目の先発となります」

 声のトーンも落ち着いているし、日没の描写も情景喚起力があって良いのだが、やっぱりコチコチに緊張しているのだ。伊藤翔をサウスポーだと言ってしまった。もちろん2018年のドラフト3位、伊藤翔は右投手だ。サウスポーはファイターズの先発、上原健太のほうだ。

 これ、文化放送のクルーはどうするかなと思ったけど、試合開始間際のことでもありスルーした。ディレクターが「伊藤翔は右腕」と訂正メモを入れたり、解説の松沼雅之さんが「いや、伊藤翔はサウスポーじゃないでしょ」とツッコんだりすると、試合序盤で大崩れするケースがある。とにかくそれは聴かなかったことにして、もし万が一、3回表になっても伊藤翔をサウスポーだと言い張るようなことがあれば訂正を入れる手だろう。とにかく初回は山田弥希寿をリズムに乗せることだ。

 そうしたらこの試合、ファイターズ打線が(山田アナに対し)無慈悲だったのだ。2回、西川遥輝の犠飛を皮切りに、3回は大田泰示の2点タイムリー、4回、西川ホームランと得点を重ねる。西武は敵失及び中村剛也の「メットライフドーム通算200号」ソロで2点返すが、そこからハムが打つわ打つわ、「山賊」のお株を完全に奪う20安打12点の猛攻である。

 山田アナはこのデビュー戦、トイレが心配ということで大人用おむつを着用してマイクを前にしていた。長い試合は困るのだ。それもただ長いだけじゃなく、局の推しチーム、ライオンズが一方的に負けている長い試合だ。いちばん雑談力、話の引き出しが必要な展開だ。「1点を争う投手戦」や「シーソーゲーム」は試合の流れを追うだけで盛り上がる。実況アナの腕が問われるのは「雨による中断」と「ワンサイドゲーム」だ。山田アナは話に詰まって、所沢の日没時間をもういっぺん言ってみたりした。たぶんノートに書いてあるのだ。がんばれ山田アナ!

大人用おむつ! メットライフドームの実況ブースは、すぐ近くにトイレありますけどー