冒頭のバゲットに戻る。強烈に感じた味や香りは、すべてセイジアサクラの人生から来ている。あのぎらぎらした甘さは、粉に水をしっかり吸わせて麦のポテンシャルを最大限に発揮させる、ベルナール・ガナショーのポーリッシュからヒントを得たもの。麻薬のような旨味は、発酵種(ルヴァン)を思いのままにコントロールするエリック・カイザー譲り。そして酵母の香りの刻印はセイジアサクラ自身。半生において強烈にインスパイアされたものを組み合わせて、彼のパンはできあがる。
「ただ、うまいもん作りたい。それだけ。それが自己表現であり、糧(かて)であり、自分の存在価値。うまいもん作れないんだったら、パン屋なんてやりたくないもん。しんどいし、儲からないし。
だったら、思い切りやったほうが、絶対いいって。挑戦したいし、いろんなことを知りたい。突き動かされる気持ちが大きい。せずにいられない。
それがパンを一生懸命焼くこと。先人が知恵を重ねて作り上げた、バトンを受けて、自分がまたそこに知恵を重ねて、後世に伝える。
おいしいものを食べてもらいたい。
世界を見た限りは、閉ざしちゃだめだ。(自分がやりたいのは、)たかがパンに人生かけて、いろんな酵母起こして、世界見て、その上でいちばんおいしいと思うもの、これなんだよってお客様に食べてもらうこと」
セイジアサクラは21歳で見た夢をいまだに追いつづけている。
「フランスから日本に帰るとき、ものすごく葛藤がありました。さびしい、逃げたい、という気持ちがなきにしもあらずだった。自分の中で負け犬のレッテルがある。実は勝利して帰りたかった。
どうせやるなら日本一を取りたい。世界に打って出るなら、まずは東京で一番を取りたい。その次はパリに店を出したい」
パンを食べることは、作り手の生き様を食らうことだと私は思っている。セイジアサクラのパンこそ、まさにそういうものだ。
ブーランジェリー セイジアサクラ
東京都港区高輪2-6-20
朝日高輪マンション104号
03-3446-4619
9:00~18:30
木曜休
写真=池田浩明