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 勝つことは難しいが、勝ち続けることはもっと難しい。少し前のことだが、鈴木は遠征先の東京ドームの小部屋で、「お互いに愚痴でも話そうか」と佐々岡を誘った。チーム全体のこと、コーチや選手のこと、そして冗談を交えながら鈴木はこんな話をした。

「監督、時には少しきつい言い方もして、考えを通しても良いかもしれないですね。それで人が避けるようになれば、私が話し相手になるから」

マツダスタジアム ©文藝春秋

あの王監督も敗戦続きで卵をぶつけられたことがある

 カープは何が何でも常勝という球団ではないのだ、と鈴木は思う。監督には、目先の勝利を追うのではなく、先の光が見える起用と戦いをしてくれれば、と考えている。

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 勝てば官軍、負ければ賊軍の厳しい世界だ。だが、これまでの監督たちも自分の時代だけの結果を考えた選手起用や酷使はしてこなかった。与えられた戦力を使い、新しい戦力を育成して、その財産を引き継いでいくのが、カープ監督の伝統だ。

 ファンはきょうの勝利を望み、OB以外の監督も考えろというかもしれないが、OB監督ゆえの良さもあるのだ。良い結果につながらなかったとしても、努力さえしていれば経験と若手が残るではないか。あの王監督も敗戦続きで卵をぶつけられたことがある。

――幸運が尽きたように見える、その後が大事なのだ。

 そう思いながら、鈴木は半地下の球場視察室から、今日もじっと監督たちを見つめている。

(文中敬称略)

サラリーマン球団社長

英利, 清武

文藝春秋

2020年8月26日 発売