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いまこそ振り返るべき“首相選出のジンクス”「ナンバー2昇格に成功なし」「長期政権後は反主流派が偉業」

ポスト安倍を辛口採点 中西輝政氏

2020/09/05
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岸田文雄 ★2.5 「土壇場で身内を裏切った過去は消えない」

 安倍首相に推され「ポスト安倍」候補と目されてきた岸田さんですが、いまや安倍さんや盟友である麻生太郎さんも「菅氏支持」にまわり、岸田さんは裏切られた格好です。コロナ禍の特別定額給付金の金額や支給対象をめぐって右往左往した非力なイメージがあだになって、国民からの支持も広がりません。ただ、ここまでうまくいかない裏には、私は1年前に岸田さんがとったある行動が大きく影響していると思います。

岸田文雄氏 ©️文藝春秋

 昨年7月の参議院選挙、岸田さんの地元である広島選挙区は定員2人でしたが、すでにそのうち1議席は野党の指定席でした。ところが官邸の意向で「自民党の2議席独占を狙え」となって2人の候補を擁立しました。すなわち防災担当大臣などを歴任し、自民党広島県連の推す大ベテランの現職・溝手顕正氏と、安倍さんや菅さんと距離の近かった河井案里氏です。

 溝手氏は岸田派の最高顧問でしたから、岸田さんは当然溝手氏を推さなければいけない立場です。しかし岸田氏は安倍総理からの禅譲による「ポスト安倍」を期待していましたから、総理の意中の人である河井氏をむげに扱うことも出来なかった。

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 結局、岸田さんは河井氏の選挙カーの上で応援マイクを握ってしまいました。溝手氏陣営は「2位でも構いません!」と街頭で悲壮に訴えましたが、最終的に河井氏が当選し、現職だった溝手氏は議席を失いました。岸田さんのこの、身内への「裏切り」は、政治家としては超えてはいけない一線でした。

 思えば、安倍さんたちにいいように「使われた」挙げ句、土壇場でハシゴも外された岸田さんは、かわいそうではありますが、やはり昨年のあの応援マイクを手にとった瞬間に政治家としての限界を露呈していたのです。

 もっといえば、岸田さんが安倍さんにいいように使われたのは去年の選挙だけではありません。2015年の「日韓慰安婦合意」を実現するなど、外務大臣も4年以上経験した岸田さんですが、あの慰安婦合意もアメリカのオバマ大統領と安倍さんが作った道筋をなぞっただけ。在任の4年間、岸田さんが外相とはいえ、その間は「地球儀を俯瞰する外交」を掲げる安倍さんが自ら実質的な外交全般を担い、それに従うばかりの岸田さんは重要な場には出ることができませんでした。実際のところ、岸田さんに「外交経験がある」とは言えないと思います。