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いまこそ振り返るべき“首相選出のジンクス”「ナンバー2昇格に成功なし」「長期政権後は反主流派が偉業」

ポスト安倍を辛口採点 中西輝政氏

2020/09/05
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石破茂 ★3.8 「米中対立下での舵取りに不安」

 森友・加計学園問題でも安倍首相に対し追及の姿勢をとり、これまでの総裁選でも安倍首相と争うなど、石破さんは党内では長らく「反主流」派という立場を続けてきました。これまでの戦後日本政治では、長期政権が終わるときには、こうした「反主流」を貫いた人が新しい首相に就任しており、それが自民党の活力源にもなってきました。

石破茂氏 ©️文藝春秋

 1954年には、長期間、アメリカ中心の外交を続けてきた吉田茂首相にかわり、その間「反・吉田」を貫いてきた鳩山一郎首相が誕生し、日ソ共同宣言を批准してソ連と国交回復を成し遂げました。1972年には、7年8ヵ月にわたる長期政権を維持し、中国と距離を置く政策をとっていた佐藤栄作首相がやめた後には、田中角栄内閣が誕生して日中国交正常化が実現しました。

「主流」派が栄華を極めている間に、「反主流」派の立場を保ち続けるのは容易なことではありません。石破さんだけでなく、とくに安倍時代、干され続けた19人の石破派の政治家たちはみな厳しい立場にあっても節操を曲げず、石破さんの元を離れることはありませんでした。農林水産大臣を務めた齋藤健さんのように、一時は入閣し安倍さんに「一本釣り」されそうになったときも、政治家としての筋を通し、そのポストを取り上げられてもなお石破さんを支え続けてきた人もいます。「党内に味方が少ない」といわれることも多い石破さんですが、損得を離れてしっかり支えてくれる仲間がいるというのは、今の日本では特筆すべきことです。

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 石破さんには見捨てられた地方や弱い立場の人間に対して目を向けようとする姿勢があると思います。石破さんが防衛大臣だった2008年、海上自衛隊所属のイージス艦が漁船と衝突し、乗員2名が行方不明になる事故が起こりました。石破さんはこの事件の被害者の家に何度も足繁く通い、お詫びをし続けた。そこには大臣という立場を超えて人として「情」を大切にする姿勢が見られ、東京一極集中型の日本を変えようという、彼の「地方創生」の政策論にもつながってきます。

 ただし、石破さんの欠点は地方創生以外にあまり具体的政策が出てこないこと。「内需拡大」という政策でもそうですし、外交・安保の観点でも、米中対立が進む国際関係において、はっきりとした姿勢を打ち出せていない。これだけ中国が暴走を続ける中で、いまだに「安保はアメリカだけど、経済は中国」という等距離外交に近い中立的な政策をとろうとしているように見えるのは、危ういことです。