歴代最長となる政権を担った安倍晋三首相が8月28日、体調不良を理由に突然の辞任を発表。今後の焦点は「ポスト安倍」の行方に移った。コロナ禍、東京五輪、経済対策など課題が山積する中で、次期宰相には誰がふさわしいのか。

「文春オンライン」では、各界の識者に連続インタビューを行い、「ポスト安倍候補」を5点満点で採点してもらった。今回は作家・評論家の古谷経衡氏に聞いた。

古谷経衡氏 ©文藝春秋

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菅義偉 ★1.5 実際は角栄と正反対の「富裕層重視」

 世襲ではなく、雪深い秋田から上京した苦労人だという点で、菅さんのことを“第2の田中角栄”だと言う向きがあります。確かに菅さんは北日本の日本海側出身者で、かつ地方活性を掲げているので「列島改造論」をぶった角栄と似た傾向があるかもしれませんが、菅さんが重視しているのは角栄とは正反対の大都市における富裕層だと言わざるを得ません。

菅義偉氏 ©文藝春秋

 それは菅さんが総務相時代に地方活性の一環として創設した「ふるさと納税」に表れています。つい最近、泉佐野市がふるさと納税制度の対象自治体から除外されたことを受けて国相手に裁判し勝訴したことが話題となりましたが、創設から10年以上経った今、果たしてふるさと納税が地方活性に役立ったでしょうか。はっきり言って大都市の富裕層だけが得をする通販制度に成り下がっています。

 また菅さんはIR(事実上のカジノ)推進として知られていますが、IR利権で潤うのは地元ではなく、経営企業であり、日本人利用者も中産階級以上が想定されています。とにかく規制を改革して外資などに市場を開放していけば経済はうまくいく——。地方重視という割に、実際にやっていたのは新自由主義的な世界観の推進です。

 菅さんのやることは理屈ばかりで実践が伴っていない。現地に赴き、その地に住む人とどぶ板の会話をする「取材性」が欠けていて、理屈上、データ上でしか物事を考えていない。地方出身の叩き上げの政治家のわりに、永田町から遠く離れた地域の人や歴史のことを考えられていないのです。ここが田中角栄との最大の相違点です。

「沖縄の悲劇と屈辱に寄り添う」という姿勢は見られない

 菅さんは沖縄辺野古新基地建設にも関わり、地元ゼネコン等との関係を深めましたが、地元住民の理解を求めるためにUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)沖縄誘致を匂わせた時には私は失望しました。USJという“アメ”を沖縄に与えれば辺野古移設の議論も上手くいくと考えてしまう“垂直的な理屈バカ”さ加減に、一国のリーダーとしては危うさを感じてしまいます。軍民戦死者20万という壮絶な戦闘を経験した沖縄には、保・革双方に「損得」では割り切れない複雑な感情と中央(東京)との距離感があります。

菅義偉氏 ©文藝春秋

 かつての宰相には少なくともこうした沖縄の保・革双方にある懊悩を踏まえたうえで、「先の大戦で唯一の本土地上戦を経験した沖縄の悲劇と屈辱に寄り添う」という姿勢があった。菅さんの一族は満蒙開拓団として敗戦時に内地に引き上げ、散々苦労しました。そういった戦争経験が一族にあるのに、「辺野古移設が唯一の選択肢」と居丈高に沖縄に強制する。はっきり言って沖縄を舐めている。取材力はおろか歴史への想像力が足りていないと思います。というか、単に歴史を不勉強なだけかもしれません。もっと勉強してはいかが?と言いたいです。