なぜ安倍辞任で「対日勝利ムード」になるのか
――長年日韓関係を取材してきた黒田さんから見て、これまでも政権が変わることで、日韓関係が変化したことはあったのでしょうか?
いままで日本の政権が次々変わっていたので一概には言えませんが、首脳が交代するときは、得てして関係改善のきっかけになる。挨拶がてらの電話会談などで首脳外交再開のチャンスがありますから。
楽観的に考えれば、「安倍が悪い」とずっと言ってきた文在寅政権は、日本に折れる「名目上の理由」が出来た。安倍首相の辞任が文政権の対日強硬姿勢を崩すきっかけになるかもしれません。「安倍首相が辞任して変化が期待されるので、自分たちも態度を軟化させる」と説明すれば、国内世論に向けて格好がつく。つまり、「自分たちが許してやった」という言い訳が立つわけです。
もっといえば、いま文在寅政権には「対日勝利ムード」感があるかもしれない。我々が日本に強く対応してきたから、結果として安倍が引っ込んだのだと。もちろん一方的な思い込みですが、心理的には日本に勝ったような気持ちが芽生えているのではないでしょうか。
そう思って、先に紹介した青瓦台のコメントを改めて読んでみると、なるほどと納得しました。安倍首相の辞任についても「残念に思う」「健康回復を祈る」と、ちょっと上から目線なんです。あのコメントも「安倍首相辞任へのメッセージ」ということにはなっていますが、結局韓国国内に目を向けたもの。「韓国側が主体的に一歩上に立っているんだ」と国民にアピールする内容でもありました。
もちろん、この「対日勝利ムード」は韓国側が勝手に思っているだけですが、この気分をうまく利用すれば韓国側の譲歩を引き出せる可能性もある。いっそ自由にそう思っていただいてもいいと、私は思っています。韓国の対日外交はひとえに国内世論が重要ですから。