「終活」中の文政権は反日カードを切らない
――「対日勝利ムード」が生まれると、日本に対してより強硬に出てくることはありませんか?
日本との関係が長期的に悪化している現状に、じつは韓国国民の心理として落ち着かないところがあります。
そもそも韓国は中国や日本、ロシア、そして米国と、大陸の端っこで大国に挟まれて長らく国をやってきた。この地政学的環境で、手練手管をつくしながら利を得るという外交を伝統的にとってきたから、「ある周辺国とずっと関係が悪く」「強硬姿勢で対立が続いている」と落ち着かなくなるのです。不安感といってもいい。
後編で詳しく説明しますが、韓国には日本に強い親近感、あるいは接近感がある。それだけに昨年から人の往来が激減し、さらにコロナ禍で行き来できなくなった現状はいい気持ちがしない。そろそろ「関係悪化を止めたい」「関係を改善した方がいいんじゃないか」という漠然とした不安が大衆感覚にもある。
この韓国世論を考えると、文在寅政権がこのまま日本にファイティングポーズをとり続けるのは、必ずしもプラスではなく、世論的には指導力としてマイナスになり得るんです。
文在寅政権において、対日関係の重要度が上がったわけではありません。文在寅大統領が辞めるまでは、北朝鮮が最優先という順位は変わりません。しかし、文在寅政権の任期は2年を切り、いまや政権の業績残しという「終活」段階にはいっています。このタイミングで、また「反日カード」を切って日韓関係がさらに悪化すると、「対米関係、対中関係だけでなく、対日関係まで大きく悪化させただけの大統領だった」と烙印を押されてしまう。
ですから、私は退任前に日本との関係は改善しなくても、改善の「きっかけ」くらいは作ろうとすると思います。「日本との関係は悪かったけど、改善の筋道はつけた」という評価を得ようとするのではないでしょうか。
その意味では、文在寅大統領の後継者候補である李洛淵(イ・ナギョン)前首相が8月末、与党「共に民主党」の代表になったことは大きい。彼は世論的にも与党的にも「知日派」として知られています。希望的にいえば、知日派の有力者である彼の役割の再浮上を含め、関係改善への動きが出てくるかもしれません。