「日本の次期首相に対する助言は、ただ一言に尽きる。『一生懸命やれ』、だ。米政府が、日本の立場をいつも理解して同意してくれるなどと期待しないように」

 これは、ドナルド・トランプ米政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトン氏から日本の次期首相へのアドバイスである。非常にシンプルな助言に聞こえるが、その実行にはとてつもない努力と労力が要求される。

 この度、辞任を表明した安倍晋三首相は、トランプ大統領が最も信頼する外国首脳と言われる。トランプ氏に最も親しい人物の一人と言われる安倍首相。その秘訣は何か? ボルトン氏に尋ねてみたところ、意外な答えが返ってきた。

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「安倍首相はトランプ大統領就任前の段階から彼と意思疎通を図るべく大変尽力していた」からだというものだ。

ジョン・R・ボルトン氏(前アメリカ大統領補佐官)

 あまりにも当たり前すぎる理由で、物足りなさを感じるかもしれない。しかし、ボルトン氏の新著『ジョン・ボルトン回顧録』を読むと、この「努力」がいかに絶え間なく求められ大変なものか、実感させられる。

安倍政権の懸命な努力があってこそ

 安倍首相とトランプ大統領の個人的関係が親密な理由は、たまたま二人のウマがあったから、という単純なものではない。日本政府はトランプ氏の好みを徹底して調べ上げ、トランプ氏をはじめ、様々なレベルでトランプ政権にたゆまずアプローチしてきた。例えば、韓国の文在寅大統領が北朝鮮政策についてトランプ氏に電話すると、安倍氏はいつもすぐその後にトランプ氏に電話して、あるべき北朝鮮政策について進言する。安倍首相は対北朝鮮政策でこれを繰り返してきた。

 ボルトン氏はこう証言する。

「日本政府は国益を守るため、トランプという未知の大統領を相手に一生懸命働き続けてきた」

 日米首脳間の親密な個人的関係は、その努力の積み重ねの帰結なのである。

 その安倍首相ですら、トランプ氏を相手にするのは容易ではなかったはずだ。例えば、2018年4月に米国フロリダ州で開催された日米首脳会談は、日米同盟の強靭ぶりを示す成功例として評価されてきたが、その舞台裏は決して平坦ではなかったという。